ICOの時代は来るか? #01 安昌浩氏 ALIS――必要なのはルールの明確化。資本力ではなく、イノベーションの可能性で判断される世界を望む

ICOの時代は来るか? #01 安昌浩氏 ALIS――必要なのはルールの明確化。資本力ではなく、イノベーションの可能性で判断される世界を望む

2017年に日本国内でICOを実施して4.3億円を調達したALISプロジェクト。「ICOの時代は来るか? 有識者に訊く」と題したこの企画では、ICOに対するオピニオンをさまざまな立場の方々に訊いていくが、今回は株式会社ALISのCEOである安昌浩氏に、ICOに至る経緯や当事者として感じたこと、現状や課題について訊いた。

ビットコインをきっかけに知ったICO

2017年3月に参加したビットコインの勉強会で暗号通貨やブロックチェーンに興味を持ち、調べているうちにICOを知った。もともと、5月に会社を辞めて起業するつもりで、どのようなビジネスをやるか模索中だった。ブロックチェーンに大きな可能性を感じ、ICOにも挑戦したいと考えた。

 

既存のDappsでどのようにトークンが活用されているかを調べたら、ソーシャルメディアプラットフォームである「Steemit」のモデルが有望だと感じた。それを参考に、ユーザーによる評価と信頼を提供価値とした「ALIS」を構想した。

 

ユーザーが主体となるメディアサービスに注目したのは、前職の経験で広告ビジネスに対して課題を感じていたからでもある。広告収益モデルのメディアは、広告クライアントを批判しにくいという構図がある。しかし、今はクチコミの時代で、ユーザー評価によって形成される信頼がより重要となる。そのようなメディアをALISでは目指している。

ALISとは
「信頼できる人々と記事にいち早く出会える」ことを可能にするソーシャルメディアプラットフォーム。信頼できる記事を書いた人と、それをいち早く見つけた両者にトークンを配布することで、利用の動機付けと品質向上を実現している。2018年7月時点では、事前登録制のクローズドベータ版を提供中。

手探り状態で決心した日本でのICO

5月に、仲間とともにALISを設立し、すぐにICOのホワイトペーパーを制作した。その時点では、ICOをどの国で実施するかは決まっていなかった。日本は、税制面もまだ整備されていなかったので、試行錯誤しながら準備を進めた。一時は、ICOを香港でやろうとも考えた。しかし、日本でやりたいという思いが強く、最終的には日本で実施することに決めた。

また、海外の会社としてICOをした場合、日本で継続的に事業をやっていけるかという懸念もあった。たとえば、「海外にある会社が、日本のユーザーに向けてサービスを提供してはいけない」という規制ができたら、そこで終わってしまう。だから、日本でやったほうがいいと当時は思っていた※1。ただし、状況が変わった今は、その限りではない。

※1 安氏やALISのメンバーがICOを決断するまでの経緯や逡巡が、以下のブログ記事にまとめられている。

日本に必要なものはルールの明確化

今、もっとも必要とされているのは、ベンチャーが挑戦しやすい形で、日本でICOをやるための法的基準やルールを明確にすることだ。

 

私たちは、ルールがない中で、手探り状態でICOを行った。しかし、その頃から状況は大きく変わり、現在ICOを行うには仮想通貨交換業者の免許が必要になる。しかし、免許取得の条件を考えると、資本力や実績が乏しいベンチャー企業にはハードルが高く、実質的に不可能だ。この先、ルールの策定が進み、ICOが可能な環境が整備されるとするならば、資本力に依存しない形が望ましい。資本力で判断されると、ベンチャー企業にとって厳しくなり、それでは日本の産業でイノベーションが生まれにくくなってしまう。

 

米国には、イノベーション産業を生み出す土壌がある。UberやAirBnBは、決して圧倒的に突出したビジネスモデルというわけではない。ただ、米国は必要以上に規制しようとせず、イノベーションの種として育てたことで、大きく成長した。

 

暗号通貨に関しても、米国は厳しく規制しているように見えるが、適格投資家を作り、積極的にICOへ投資をさせている。その結果、ブロックチェーンのビジネスや技術に関する知見を積み重ねることができている。私は、米国のブロックチェーン関係者と少し話しただけで、レベルの違いを痛感した。

 

その意味で、米国の規制はさじ加減が絶妙で、金融市場とブロックチェーン市場のどちらも獲得しようとしている。それに対して日本は、このままだと市場獲得の可能性を自ら手放すことになる。

過度な規制は発展を阻害する

私は、規制を全面的に否定するつもりはない。ただ、「リスクがあるから」という理由で規制するのは、日本という国や産業の発展にとってはマイナスだ。既存の金融のルールに寄せてしまうと、米国とは勝負にならない。ブロックチェーンという新たな可能性も、金融市場と同じように米国主導になってしまうだろう。

 

日本の産業発展を目指すならば、金融ではなく、新しい別のものとして位置づける必要がある。改正資金決済法は、まさにそれを体現した好例だったと思っている。しかし、その後は消費者保護を優先するあまり、規制が厳しくなり、窮屈になってしまった。

 

もちろん、消費者保護は重要だ。実際、いくつかの事件が起こっており、規制が必要とされるのはやむを得ない。しかし、過度な規制は産業を停滞させてしまう。リスクをとらなければ、発展はない。

 

あらゆる分野で生産性向上が求められている中で、一番有力なものがITだ。金融もITにシフトしつつあり、それがFinTechという“うねり”を生んでいる。暗号通貨やブロックチェーンは、まさにそのうねりの中心にあるものだ。

ICOはイノベーション創出を促進する資金調達方法

ICOのメリットは、デューデリジェンス(投資対象の評価)の基準が、これまでの資金調達方法とは異なる点だと考えている。ある程度の収益性や確実性を前提に評価すると、まったく新しい未知のビジネスは、投資の対象から外れてしまう。起業家にとっても、投資家や株主に対するリターンが最優先されると、新しいことに挑戦しづらくなる。

 

しかし、ICOはそうではない。ベンチャー企業がイノベーションを起こすための資金調達方法として適している。

 

資金調達がしやすい一方で、多くの詐欺が存在することは、ICOの大きな課題だ。しかし、インターネットも登場した頃は怪しいものと思われることもあった。だからといって、すべてを規制するのではなく、国がしっかりと向き合ってきたおかげで、現在の発展がある。ブロックチェーンやICOも同じようにとらえる必要がある。加えて、すべてを法規制で解決しようとするのではなく、DAICOなどの仕組みを活用することにより、物理的に詐欺が起きづらい状況を実現することも可能だ。

 

まさにテクノロジー主導のマーケットであるからこそ、そういったテクノロジー主導の方法を検討する必要性を感じている。

目指しているのは「信頼の可視化」

ALISプロジェクトでは、ALISトークンそのものによって成立する独自の経済圏を作ろうとしている。法定通貨(Fiat Currency)である円との交換を前提にするのではなく、ALISトークンと何らかの価値あるものを交換するという世界だ。

たとえば、ALISで記事を投稿し、それが評価されてALISトークンを獲得する。それを野菜と交換してもいいし、「ドローンの操作方法を教えてもらう」といった無形の価値もあるだろう。ALISトークンは、ユーザーのサービス利用を促進するためのインセンティブではあるが、その根底にあるのは信頼の可視化だ。信頼の証としてALISトークンが付与されたり、交換したりできる。地域通貨のように、コミュニティー内における価値を抽象化したものだ。

 

しかし、法定通貨との交換が前提になると、どうしても投機対象になりがちだ。決済手段になれば、ビットコインやイーサリアムに勝負を挑むことになってしまう。そうなれば規模の勝負になり、厳しい。何よりも、既存の金融に対抗するものとして生まれた暗号通貨が、結局は金融に取り込まれてしまうことになる。

現実路線としてトークン価格の向上と上場も視野に

ここまでは理想論だが、ビジネスとしてやる以上、サービスやトークンの可能性を上げる必要はある。それがソーシャルメディアというサービスであり、マネタイズのしやすさやトークンの絡ませ方などは考えている。

 

ALISトークンの所持者には投機目的の人もいるが、その部分でも魅力的なものにしていきたい。将来的には、ALISトークンを日本国内で上場させたいと考えている。規制の動向を見ていると条件は非常に厳しくなりそうだが、だからこそ挑戦したい。

 

ただし、ALISトークンの価格を上げることが目的の中心になってはいけない。あくまでも、ALISというサービスが評価された結果として、トークンの価格も上がることが重要だ。サービスの価値は変わらないのに、トークンの価格だけ上がるのは問題だ。

危機感を持ちながらプロジェクトを進める

ALISは、2018年4月にクローズドベータ版をリリースした。多くのICOプロジェクトが遅延している中で、ALISは順調だと感じている。ICOプロジェクトとして信頼を得るためには、できる限り情報を公開し、透明性を示していく姿勢が重要だと考えている。

 

ICOの当事者として、「これだけオープンにして、真摯に取り組んでダメなら、ICOの可能性はない」という気持ちで取り組んでいる。ベータ版の利用状況を見ると、予想よりも良い結果が出ている。ALISでは、コミュニティーの存在を何よりも重視している。実際に、ユーザー同士の自発的な活動が生まれており、この動きをさらに広げるように取り組んでいく。

 

法規制が厳しくなる一方で、ビジネスとしてどう体制を作るか模索している。危機感を持ちながら、マイルストーンに沿って迅速にプロジェクトを進めていきたい。

 

インタビュー実施日:2018年6月20日
構成:仲里 淳
写真:友澤 綾乃

Profile

安 昌浩(やす まさひろ)

株式会社ALIS

CEO

京都大学で核融合を専攻した後、2011年に株式会社リクルートへ入社。転職メディアの商品企画やHRTech領域の新規事業開発をはじめ、自然言語解析や機械学習領域の事業開発を担当。2016年、同社の企画部門の最高賞を受賞。2017年9月にブロックチェーンを用いたALISを立ち上げるためにICOを実施し、4.3億円を調達。