ICOの時代は来るか? #02 沼澤健人氏 Aerial Partners ――ICOプロジェクトを技術的観点から監査・評価できる存在が求められる

ICOの時代は来るか? #02 沼澤健人氏 Aerial Partners ――ICOプロジェクトを技術的観点から監査・評価できる存在が求められる

沼澤健人氏は、暗号通貨に詳しい会計・税務の専門家として、ALISプロジェクトのICOやさまざまなブロックチェーンビジネスをサポートしてきた。「ICOの時代は来るか? 有識者に訊く」と題したこの企画では、ICOに対するオピニオンをさまざまな立場の方々に訊いていくが、今回は暗号通貨にいち早く取り組み、起業家としてもチャレンジを続ける同氏に、ICOの可能性や課題について訊いた。

SNSでの情報発信をきっかけに暗号通貨税務の課題を実感

2017年の年明けから、仕事として暗号通貨関連に関わるようになった。仮想通貨交換業者の制度が始まるタイミングで、交換業の登録サポートなどを行っていた。また、個人として暗号通貨の投資も行っていたが、税務処理の複雑さに懸念を感じていた。世間ではビットコインが注目され、多くの個人投資家が参加していたが、所得税の計算が非常に複雑でサポートが必要になると考えていた。

 

6月からツイッターアカウント「ニ匹目のヒヨコ(@2nd_chick)」で暗号通貨税務の情報発信を始めたが、あまりにも相談が殺到し、個人で対応できるレベルを超えてしまった。仕組み化の必要性を強く感じ、個人投資家の税務処理をサポートする「Guardian」や「G-tax」を開発・リリースした。

 

当時、暗号通貨に関して目立った活動をしている会計・税務の専門家がほとんどいなかったこともあり、ICOの有無に関わらず多くのブロックチェーン関係者から相談をいただくようになった。

開かれた資金調達によって企業活動の壁が取り払われる

「開かれた資金調達方法」として、ICOには大きな可能性を感じている。これまで、未公開のベンチャー企業を直接支援したり、国をまたいで応援したりするための手段は、事実上存在しなかった。2017年は、ICOによる資金調達額がベンチャーキャピタルからの資金調達額を超えた。2018年のICO資金調達額は、2017年の額をすでに超えている。このことからも、いかに注目を集めているかがわかるだろう。

Aerial Partners CEO沼澤健人氏

また、ALISプロジェクトのように、トークンを発行することで、出資者兼ユーザーによるコミュニティーを形成しているが、資金調達に限らない、新しい時代の事業活動のあり方として興味深い。

 

従来は、会社、顧客、出資者が分けられた形で事業活動が行われていた。しかし、出資者でありユーザーであり応援者でもある立場の人々によって、運営チームを取り巻くコミュニティーが形成され、その中でプロダクト改善や新機能開発が行われている。物理的な隔たりや契約などに縛られない、さまざまな壁が取り払われた新しい企業活動になり得るのではないかと注目している。

課題はICO実施者と出資者とのギャップ

同時に、新しいものであるため、法や制度の整備が間に合っていない。容易に資金調達ができるため、不正利用されるおそれもある。ICOは資金調達の手段であり、出資する側とされる側の期待が、本来は一致してしかるべきだ。しかし、現状ではその部分があいまいになっていることが少なくない。

 

ICOの実施者は、プロジェクト遂行のために資金を必要としている。一方、ICOに参加する側は、投資として金銭的リターンを求めているのか、純粋に応援しているだけなのか、あるいは別の何かを求めているのか。そこにギャップがある。

 

ICOの実施者がしっかりと情報開示し、そのギャップを埋める努力をしていかなければ、市場がゆがんでしまう。これは、ICOにおける大きな課題だが、DAICOなどはその解決策の一つといえるだろう。私が関与しているICOプロジェクトには、そのようにアドバイスしているし、自ら範を示すような活動に協力していきたい。

会計・税務面をサポートできる人材が不足

ICOや暗号通貨の分野では、会計や税務面でビジネスをサポートできる人材が不足している。われわれも、一般社団法人日本仮想通貨税務協会(JCTA:Japan Crypt-currency Tax Association)という組織を立ち上げて、専門家の啓蒙に取り組んでいる。

 

法整備が進んでいないことも課題だが、それ以上に専門家が不足していることは問題だ。そもそも、暗号通貨やブロックチェーンに対する理解もまだ十分ではない。サポートできる人材がいなければ、事業家は事業活動に安心して全力を注ぐことができない。

 

JCTAでは、現場の実務から得た知見を積み重ね、それを当局に伝える窓口の役割も担えていきたいと考えている。金融庁の有識者会議などで話し合われている内容を見ていても、実務の現場で生じている新たな課題に追いつけていないのではないかと感じている。

 

現在、技術やビジネスの最前線にいるベンチャー企業が、ブロックチェーンの社会実装に取り組んでいる。一方、当局とともに法整備に関わっている業界団体は、金融業界出身の人間が中心的だ。このままでは、ベンチャー企業の重要な意見を無視したまま、法整備が行われてしまうのではないかと危機感を感じている。

日本でのICOは交換業者が取り次ぐ形で実現

2017年の日本は、世界に先駆けて仮想通貨交換業者制度を整えたことで、世界中から賞賛を浴びていた。しかし現在は、ICOを実施するには交換業者であることが条件となり、ベンチャー企業にとっては厳しい内部統制ルールが設けられてしまった。

 

もちろん、当局は何もしていないわけではなく、むしろ世界をリードしていきたいという思いを持っているはずだ。しかし、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の4次審査(第4次対日相互審査)を2019年に控えており、世界に対してはマネーロンダリング対策を優先せざるを得ない。

 

国力を高めるためには、仮想通貨業界のことだけを考えていればいいわけではなく、ジレンマを感じているのではないだろうか。

それでも、交換業者が取り次ぐ形で、日本国内でICOを実施できるように法整備が進められている。金融庁の審査が一段落し、交換業者の対応も落ち着いて、取引所経由でのICOが可能になる状況に早くなってほしい。

 

取引所経由でのICOが可能になると、次はどのICOプロジェクトを取り次ぐのかが焦点になる。さまざまなプロジェクトがある中で、その品質や健全性、将来性をどのように評価するのか。われわれも、法律の専門家と協力しながら、その部分までサポートしていきたいと考えている。

取引所がICOの取り次ぎをするという構図は、中央を持つことになるため、ブロックチェーンやICOが本来持っていた非中央集権化の思想に反するものだ。しかし、そのように法整備がされたなら、そのルールの中で戦わなければならない。

ICOの健全な発展には適切な技術評価が必要

ICOの基準を厳しくすると、ベンチャー企業にとってハードルが高くなり、イノベーションが阻害されてしまうという意見がある。しかし、ICOを取り次ぐ取引所がリスクを負う以上、監査は不可欠だ。監査の基準については議論中だが、ある程度以上の水準は担保する必要がある。これまでのように、ホワイトペーパーの内容やアイデアさえ良ければ資金調達できるというわけにはいかないだろう。

Aerial Partners CEO沼澤健人氏

問題は、スマートコントラクトやトークンの発行など、技術的な部分での監査(audit)をどうするかだ。IPO(株式上場)であれば、ファンダメンタルズの数字を確認することで、問題ないかどうか判断できる。また、株式市場には、会計士をはじめ、証券会社、証券取引所、さらに中立的な格付け機関がおり、仕組みとして確立されている。ICOでは技術評価が重要で、これが適正にできなければ、不十分な監査になってしまう。

 

現状のICOでは、個々の出資者が技術評価までするのは難しく、ファウンダーやアドバイザーの実績や知名度によって補っている。その結果、ホワイトペーパーに載る顔ぶれが豪華なほど、お金が集まりやすくなる。しかし、これが事業家と出資者との間にギャップが生じる原因にもなっている。プロジェクトを遂行する技術力があるかどうかを適切に評価できれば、このギャップを小さくできるはずだ。

 

今後は、技術的観点での実行性を含めてICOプロジェクトを監査・評価できる存在が求められてくるだろう。すでに、そのようなニーズに応えようとしているプロジェクトが国内外で現れている。

普及の鍵は「ペイメント(決済)」と「セキュリティー(有価証券)トークン」

非中央集権化、分散型社会、リバタリアン思想、オールドエコノミクスに代わる新しいニューエコノミクスの到来–これらはブロックチェーンについてよく語られていることで、私も一側面では同感だ。

 

ただし、オールドエコノミクスとニューエコノミクスは、二項対立する概念ではない。ある日突然、オールドエコノミクスの時代が終焉を迎え、新しいニューエコノミクスの時代が始まるというシナリオは想像しがたい。私はブロックチェーンを、破壊の技術ではなく、従来からある仕組みを、より効率的にするための仕組みだととらえている。

 

オールドエコノミクスとニューエコノミクスは、例えるなら2つの集合が一部重なり合うベン図のような関係だ。一方からもう一方へ、「重なり」の部分を通って少しずつ変化する。あるいは、重なり合いながら共存していくのではないか。資本主義経済とトークンエコノミクス、貨幣経済と信用経済。それらの「重なり」が何になるのかに、私は強い興味を持っている。鍵になるのは、ペイメント(決済)とセキュリティー(有価証券)トークンだろう。

 

新しい概念は、投機に始まり、投資に育ち、実需へと帰結する。実需として、私たちにもっとも身近なものが決済だ。お店での支払いに、暗号通貨を使えるようにする。今は、暗号通貨で支払おうとすると税金の計算が必要なので、業界飲み会をやっても面倒だから誰も使わない。それでは実需に結びつかない。実需として根付かせるには、少額決済の特例などで使いやすさを高めていく必要がある。

 

インタビュー実施日:2018年7月11日
構成:仲里 淳
写真:友澤 綾乃

Profile

沼澤 健人(ぬまさわ けんと)

株式会社Aerial Partners

CEO

2012年2月より、KPMG有限責任あずさ監査法人に入社。上場企業の監査業務やM&Aにおけるデューデリジェンス業務、IPO支援業務等に従事。2014年8月に同社退職後、Taskey株式会社創業。2016年12月に株式会社Aerial Partnersを設立し、代表取締役CEO就任。IPO支援やM&Aのデューデリジェンス、IFRSの導入サポートを行う株式会社Atlas Accountingの代表や日本仮想通貨税務協会の理事も務める。