ICOの時代は来るか? #03 沼田健彦氏 GREEN FUNDING ――ICOはクラウドファンディングの限界を突破し、多様なカルチャーを支える

ICOの時代は来るか? #03 沼田健彦氏 GREEN FUNDING ――ICOはクラウドファンディングの限界を突破し、多様なカルチャーを支える

沼田健彦氏は、クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」を立ち上げ、市場を開拓してきた。「ICOの時代は来るか? 有識者に訊く」と題したこの企画では、ICOに対するオピニオンをさまざまな立場の方々に訊いていくが、今回はインターネットならではの資金調達手段にいち早く取り組み、業界を牽引してきた同氏に、ICOの可能性や課題について訊いた。

クラウドファンディングはICOに進化する可能性を秘めている

2011年の創業以来、クラウドファンディングに関わってきた。2013年にスタートした「GREEN FUNDING」は、CCC(TSUTAYA)グループのクラウドファンディングサイトとして、順調に成長している。この成長を支えているのは、購入型クラウドファンディングの盛り上がりだ。

 

クラウドファンディングには、購入型や金融型、寄付型などの種類がある。購入型は、出資に対する見返りとして、体験や製品を得ることができる。特にガジェットなどの製品開発系のプロジェクトは一種の受注生産モデルと言えるが「先行入手」「割引」「限定商品」など、出資するメリットがわかりやすいため人気につながっている。高額なものも多いが製品が魅力的であれば多くの人々が欲しがる。そこには、経済合理性がある。

 

CCC(TSUTAYA)グループは「世界一の企画会社」というビジョンを持っており、GREEN FUNDINGを「デジタル上の未来の企画が集まる場所」と位置付けている。このビジョンに沿っていれば、GREEN FUNDINGの事業が購入型クラウドファンディングであるべきなのか、投資型を行うのか、さらにその先のICOに進化させるのかは、論点ではないと考えている。

 

資金調達という点や出資者の意識について、クラウドファンディングとICOは非常に似ていると思う。すでに世界では購入型からスタートしたIndiegogoが先んじて取り組みを始めているが、将来的にはクラウドファンディングサイトのいくつかが、ICOのプラットフォームになる可能性もあるだろう。

購入型クラウドファンディングで見えた規模の限界

購入型クラウドファンディングが好調な一方で、その限界も感じている。新製品ローンチ時の受注生産モデルとしては、市場が確立され、広がりつつある。しかし、映画やアニメ制作、アートなど、もともとクラウドファンディングで期待されていた分野での活用はまだ部分的である。コンテンツ系プロジェクトは、集める金額が50万円から500万円くらいの規模になることが多い。この規模で実現できるものには限界がある。本格的な映画の製作、巨大なアートモニュメントの創作、公園の建設などは難しい。

株式会社ワンモア 代表取締役CEO 沼田健彦氏

大きな金額を集められそうな大物クリエイターであればあるほど、クラウドファンディングを利用せず、従来どおり企業スポンサーや行政などからお金と創作の機会を得ている。活用が限定的になれば「やはり、クラウドファンディングはインディーズのためのものだ」という意識が作られ、悪循環に陥る。誰もが知っている著名クリエイターがクラウドファンディングを使うようになれば、インディーズプロジェクトのニーズや支援者も増え、規模も大きくなるだろう。しかし、その可能性はまだ低い。

投機意識を払拭できない金融型クラウドファンディング

クラウドファンディングには、投資やファンドの性質を持つ金融型もある。しかし、これでも現在の課題を解決するのは難しい。金融商品として扱われるために、法規制が厳しくなるからだ。

 

ある金融型クラウドファンディングでは、金融庁の査察をクリアするために、公認会計士などにプロジェクトの監査(デューデリジェンス)をしてもらっている。その結果、プロジェクトの起案者には、緻密な事業計画の提出が求められる。

 

たとえばミュージシャンが新しいアルバムを作るためにクラウドファンディングをやろうとしたら、「私が売れる理由」を説明しなければならないということだ。もちろん、出資者保護の観点では、ヒットするかどうか不明な案件は載せられないのかもしれない。しかし、このやり方では、結局、不動産のように、手堅いプロジェクト以外は利用が進まない。クラウドファンディングが持つ本来の意義が失われてしまう。

 

株式型クラウドファンディングも登場している。生株や特殊なストックオプションをリターンとする仕組みだが、株式という既存の概念を持ち込むことで、わかりやすさと同時に出資先の継続的なモニタリングなど難しさもはらんでいるように感じる。結局のところ、株主となる出資者の多くは、実際の株式と同じように配当を期待して投機的になってしまうのではないか。

「正しいICO」はクラウドファンディングの課題と限界を突破する

現状のクラウドファンディングに課題や限界がある一方で、ICOはそれらを突破する可能性を秘めている。

 

現在のICOは、投機性が高い。しかし「正しいICO」は、投機性も流動性ももっと低く設計されるべきではないかと思っている。デジタルトークンとして配布した時に、即時換金の制限をかけるなど仕組みの工夫が必要だろう。さらに言えば、まずは価格上昇が購入目的にならない案件を組成していくべきとも思っている。ゴルフ会員権のように、ゴルフ場を利用できるという恩恵があり、それを持つこと自体がステータスにもなる。加えて、いつでも換金できるという安心感。「正しいICO」で得られるデジタルトークンは、それに近いものではないか。

 

購入型クラウドファンディングで、舞台挨拶を最前列で聞ける特典に10万円払う人がいる。10万円と、自分が好きな俳優に近づけることの価値が同じぐらいだと捉えられているのだ。

 

同じく、10万円のトークンを持っていると、一般人は参加できないファッションブランドの展示会に、毎回呼んでもらえるとする。それをSNSにアップしたら、友人から「いいね!」が集まる。その一連の体験に10万円以上の価値を見出す人がいても、不思議ではない。その人にとっては、10万円を支払ってでもこの体験を得られる権利を得たいという判断が、合理的になされているのだ。このような価値観や判断はネット社会の広がりとともに普遍化しているように感じる。

 

ICOも、儲けることだけが目的になると、投機の延長でしかなくなってしまう。そうではなく、「その権利をいま押さえておきたい。自分にとって、将来すごい価値になるから」と考えてICOに参加する人が多くなるのではないか。

ネットで集まる資金が従来の調達手段に並ぶ世界

購入型クラウドファンディングで到達できる世界は見えつつあるが、資金調達のイノベーションが必要な領域はまだ残っている。巨大な資本を手にした一部の者が力を持ち、世の中をコントロールするという構図は健全ではない。現在の成功者たちと一部のベンチャーキャピタルが得をし続ける仕組みは早急に変わっていくべきだろう。ネットを介して集められる資金規模が、融資やスポンサードといった従来の資金調達手段と同等になった時、初めてみんなが平等になれる。

株式会社ワンモア 代表取締役CEO 沼田健彦氏

購入型クラウドファンディングの平均的な規模は、およそ数百万円程度。本なら一冊出版できる額だが、映画会社やテレビ局に影響を与えるほどではない。しかし、ICOで若者5〜6人の映画製作プロジェクトに2億円くらい集まり、それが大ヒットしたら、業界全体で危機感を感じるのではないだろうか。ベンチャーキャピタルも、購入型クラウドファンディングで数千万円が集まっても動じなかったが、巨額が集まるICOには脅威を感じているようだ。

 

クラウドファンディングが普及し、それにユーザーが慣れてきたいまこそ、「正しいICO」を実現させ、その次のイノベーションを起こせるのか。私はそこに注目している。

 

現在のICOや暗号通貨の領域は、法制度が整っていない未知の部分も多く、リスクの高い市場だ。それが参入を躊躇させていることも事実だ。しかし同時に、一人の起業家として、大きな時代の波が到来しているという期待感と高揚感を感じており、将来そこに自らも身を投じてみたいという思いも持っている。

 

クラウドファンディングも、登場した時は怪しいと言われていた。それを各社が努力しながら、安定して運用できるようにしてきた。ICOや暗号通貨も、金融庁から信頼を得た民間企業が中心となって、運用の現場で「正しいICO」を実現するためのノウハウや自主規制ルールを模索していくべきだろう。

トークンエコノミーはカルチャーと価値観の多様性を支える

ICOやブロックチェーンが築くトークンエコノミーは、カルチャーと価値観の多様性を生み出せるのではないかと考えている。それは、クラウドファンディングだけでは実現できなかったものだ。

 

お金というものは、他者とモノの価値を語り合う際に、共通言語の役割を果たす。国や文化が異なっていても、経済的数値で表せることで価値を認識できる。趣味嗜好が細分化し、価値観が多様化している現在、これは大きな意味を持つ。

 

たとえば、応援しているアイドルのCDを100万円分買うという行為は、ファンではない人にとって理解しがたいだろう。しかし、それがトークンで経済価値が10万円上がったとなれば、理解はできなくても、「見る目がある人」と評価するだろう。

 

趣味に熱中している人たちは、目利きであるほど出費がかさみ、経済的に不利になりがちだ。そんな目利きの人たちが作った世界を、金融や資本主義の上に立つ者たちが食べて生きている。それが今の世の中の構図だ。

 

しかし、新しいものを見出すことが価値を持ち始めれば、この構図は変わる。今の若者は、親の影響などもあり、公務員などの堅実な職業が好ましいという価値観を持っていて、大半はそこから大きく外れることはない。数少ない例外はITベンチャーやYouTuberで、以前なら期待値が低い職業とされていたものだ。たとえば、トークンエコノミーの世界なら、絵を描くアーティストなどは期待値が上がるだろう。

 

ITベンチャーの時価総額やYouTuberの動画再生数のように、早い段階から経済的数値をつけることができれば、絵やアーティストが本来もっている期待値が評価されお金と人が集まってくる。さまざまな業界で同じようなことが起きれば、職業や価値観、カルチャーの多様化が促される。特に若者にとって、将来の選択肢を増やすことになる。

 

資本主義の弱点は、モノカルチャー化が進んでしまうことだ。資本主義のゴールが究極の合理化であるなら、モノカルチャーは歓迎されるべきだろう。しかし人間には、本能的に多様でカオスな状態に惹かれる性質があるのではないか。そして多様性こそあるべき姿ではないのか。ICOやトークンエコノミーは、それを私たちにもたらしてくれるかもしれない。

 

インタビュー実施日:2018年6月15日
構成:仲里 淳
写真:友澤 綾乃

Profile

沼田 健彦(ぬまた たけひこ)
株式会社ワンモア
代表取締役CEO
2004年東京大学卒業。株式会社電通にて国内最大手航空会社を中心に営業に従事。商品クリエイティブからラジオ・雑誌・ネット媒体まで幅広い分野を担当。2011年に株式会社ワンモアを創業し、CCC(TSUTAYA)グループのクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」を運営。一般社団法人日本クラウドファンディング協会購入型幹事も務める。