「いまブロックチェーンで起業できる人は幸せ」とgumi國光宏尚氏らが学生にアドバイス~HashHub Conference 2018レポート

「いまブロックチェーンで起業できる人は幸せ」とgumi國光宏尚氏らが学生にアドバイス~HashHub Conference 2018レポート
去る2018年7月21日に、株式会社HashHubが主催する「HashHub Conference 2018」が東京大学伊藤謝恩ホールで開催された。暗号通貨とブロックチェーンの現状について、技術や規制、市場など多面的な視点で議論がなされた。本稿では、その中から2つのパネルディスカッション「起業家によるブロックチェーン時代のアプローチ」と「暗号通貨、ブロックチェーンの限界とその先」をレポートする。(肩書きはすべてカンファレンス当日のもの)

起業家はブロックチェーンにどうアプローチするのか

まず、「起業家によるブロックチェーン時代のアプローチ」のセッションでは、主催する株式会社HashHubの共同創業者&COOである平野 淳也氏がモデレーターを務め、有安 伸宏氏(エンジェル投資家)と國光 宏尚氏(株式会社gumi 創業者&代表取締役会長)をパネリストに議論が繰り広げられた。

 

有安氏は複数のスタートアップの立ち上げと売却を経て、現在はエンジェル投資家として活動。これまでにマネーフォワードやAnyPayなどへ投資してきている。國光氏は、スマホゲームベンダーのgumiの創業者であり、現在はブロックチェーン・暗号通貨に傾倒。2018年5月には、この分野の専門ファンド「gumi Cryptos」を立ち上げている。

 

カジュアルな雰囲気で話が進んだパネルディカッション「起業家によるブロックチェーン時代のアプローチ」

学生はブロックチェーンで起業しろ!

國光氏は、もともとブロックチェーンや暗号通貨について批判的だったという。それというのも國光氏の元に、ブロックチェーンを使った「安易な儲け話」が持ち込まれることが多かったからだといい、それもあってある時期「偏見を持っていた」という。だが、あるとき知人に「批判しているなら暗号通貨を持ったことがあるのか? 起業家が食わず嫌いでどうする?」といわれたことがきっかけで、徹底的に調べたことで、印象が正反対に変わった。そして、「いまブロックチェーンで新たなビジネスを始めないでどうする?」とまで思うようになったという。

 

國光氏は会場に向けて「学生はどのくらいいる?」と挙手を求め、会場全体の三分の一が学生だとわかると「今すぐブロックチェーンで起業しろ」と強く進言した。

 

「2007年からの10年間は、起業家にとってスマホがあり楽に起業できる時代だった。スマホファーストで、以前からあるものをモバイル上でやったら成功した。それが現在、AR/VRファーストに移ってきた。だから、いまのうちにブロックチェーンならではのことを見つけるのが大事」(國光氏)

 

一方で、なんでもかんでもブロックチェーンを使えば良いわけではないと釘も刺し、現在のブロックチェーンスタートアップの99パーセントはブロックチェーンを使う意味がないと断言する。そして、「トラストレス(※)で自律的に動く分散プロトコル」という特性を活かすことが重要だという。

※トラストレスは、信頼不要、つまり信用を保証する別の機関を必要としないことを意味するブロックチェーンの用語

gumi 創業者の國光 宏尚氏(左)と投資家の有安 伸宏氏(右)

ICOの現実を勝ち抜くための人材が必要になる

また、有安氏と國光氏は、アメリカなど世界の暗号通貨やICOの法的規制の動向についても紹介。基本的に健全化の方向に向かうと思われるが、成長する前に事業計画を明らかにする現在のICOは、スタートアップにとって厳しいと指摘し、それを勝ち抜くためには良い人材、良いチームが必要だとアドバイスした。

 

「暗号通貨の下落はポジティブなことで、詐欺的なことをやっていた人たちが撤退した。バブルが弾けたあとに冬が来るが、そこで頑張った人には春が来る。いまスタートアップできる人は幸せで、チャンスが来ている」(有安氏)

暗号通貨、ブロックチェーンの限界とその先を見据える

「暗号通貨、ブロックチェーンの限界とその先」のセッションでは、主催の株式会社HashHubの東 晃慈CEOがモデレーターを務め、アカデミアの立場から暗号通貨・ブロックチェーンについて研究してきた岩村 充氏(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授)と斉藤 賢爾氏(慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員)がパネリストを務めた。

 

岩村氏は1974年に日本銀行に入行し、1998年から早稲田大学で教鞭を執っている。日銀在籍時から電子マネー等に関する著作を記しており、現在もフィンテックをはじめとする新しい技術をベースにした経済についても積極的に発言している。斉藤氏は民間企業のネットワークエンジニアを経て、2000年から慶應義塾大学でデジタル通貨やP2Pの研究に従事している。

 

岩村氏も斉藤氏も、これまで暗号通貨およびブロックチェーンの技術的および論理的な問題点について発言しており、本セッションもその課題について解説するところから始まった。

 

技術的・論理的な問題点が語られた「暗号通貨、ブロックチェーンの限界とその先」

ビットコインが法定通貨に変わることは不可能

斉藤氏は「ビットコイン、ブロックチェーンの設計の問題は5つある」として、リアルタイム(実時間)での決済ができない点、取引の検証可能性を担保するがゆえに秘匿性が困難である点、利用規模の拡大にともない計算量が爆発するというスケーラビリティーの問題、技術を進化させる際にステークホルダーが同時に新技術に移行しなければならないというガバナンスの問題、そしてシステム全体の安定性がマイニング、すなわちビットコインの市場価値に依存していること、と整理した。

 

一方、岩村氏は、経済学の観点からビットコインを「出来が悪い」と言い切る。現在のビットコインは、ハッシュ計算のために100万人規模の都市に匹敵する電力を消費しているが、その一方でビットコインのトランザクションの総量は、そのエネルギー消費に見合うほどではないという。

 

「ビットコインに、1万ドルとか値段がついたことによって、(マイナーが殺到し)その値段に相当する資源が投入されるようになった。だから、ビットコインの価格はバブルですらない。バブルとは均衡からズレた価格がつくことだが、ビットコインはゼロから無限大のどの値段でも合理的で、安定しない」(岩村氏)

 

したがって、ビットコインはその仕組み上、価格が安定しないため大規模な金融取引に使うことができず、したがって法定通貨(フィアット通貨)に代わる存在となることは不可能だと岩村氏は解説する。

 

早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授の岩村 充氏

イーサリアムのガバナンスは民主的ではない

そこで東氏は「イーサリアムのような、通貨を目指さないパブリックなブロックチェーンについてはどうか」と問いかけた。

 

これに対して斉藤氏は「野心的な取り組みだが、実験的になってしまう」と評価。イーサリアムは課題に対して新技術を開発し、取り入れることで改善して行っているが、その技術のガバナンスが民主的ではなく(Linuxのような「優しい独裁者」と言われる方式)、また実験にもかかわらず大きなお金が動いており「ある意味で悲劇」(斉藤氏)だという。

 

これを受けて岩村氏も「ブロックチェーンの分断が起きても、それがビットコインならば深刻ではない。それはたかがお金の問題だから。イーサリアムはお金以外の構造をその上に乗せてしまっている」として、イーサリアムの課題を指摘。そして、現状のイーサリアムは分断の問題を深刻に考えているようには見えないとして、それゆえに「子どもっぽい」と評価する。

 

ブロックチェーンの先の仕組みにも取り組んでいる斉藤賢爾氏

 

このほかイーサリアムのトークンを使って、イーサリアムの総額を超えるような巨額の借金をした場合、その借金を使ってイーサリアムのネットワークを攻撃し、記録を改ざんすれば借金を帳消しにできてしまう。借金の額が、たとえば100億円といったブロックチェーンへの攻撃を実現可能なほどの巨額だった場合、債務者にはコストを掛けてでもイーサリアムを攻撃する合理的な理由ができてしまう。岩村氏は、多くの暗号通貨がこうした「ブロックチェーンやイーサリアムの存在理由を揺るがす」ような攻撃を想定していないと批判する。

 

こうした現状のブロックチェーンの課題に対して、齋藤・岩村両氏は「古文書モデル」というアイデアを提示している。

 

現在のブロックチェーンは、取引内容の記録そのものを分散した多くのノードが共有することで、その記録を改ざんしにくくしており、これを斉藤氏は「新聞モデル」だとする。これに対して「古文書モデル」は、古い記録の内容について、新しい記録から参照することで、古い内容の正しさを担保するというもの。

 

「私たちは『源氏物語』という文書があると思っていて、『いずれの御時にか』という書き出しを知っている。でも、紫式部が書いた原本は誰も持っておらず、写本かまたは源氏物語について説明した他の書物しか残っていない。でも、それらを辿っていくと、同じ方向を指しているから、『いずれの御時にか』という書き出しの『源氏物語」があった確率は、なかった場合よりもはるかに高い」(岩村氏)

 

過去の記録に対して、より新しい複数の記録がそれを参照し、その内容を検証できるならば、過去の記録は正しかったと考えられる。こうした記録と記録が互いに支え合う、いわば「ブロックメッシュ」という仕組みならば、ブロックチェーンよりも全体の改変が難しくなるという。

不完全だからこそ注目を集める

最後に岩村氏は「(現状のブロックチェーンが)持続しなくても、そういう現象は持続すると思う。「何かが現れては消える」を繰り返していけば、全体で何かをサポートできている可能性がある」、そして「ビットコインの作りはヒドいと思う。だけど、ビットコインが本当に安定的に作られていたら、誰もビットコインに注目しなかった。これも歴史のなかのひとつの現象」と、現状の暗号通貨・ブロックチェーンが不完全だとしても、その存在は決して無意味ではないとまとめた。

 

 

取材・構成:青山 祐輔