![分散型ビジネスの潮流:クラウドリアルティ 鬼頭武嗣氏― P2Pで開かれた資本市場の創設に挑む[前編]](https://blockchain-insight.ch/jp/wp-content/uploads/sites/2/2018/10/crowdrealty-kito-1-1-1600x1000.jpg)
「クラウドリアルティ」は、資金調達者と出資者をP2Pでマッチングする投資銀行の機能を担うプラットフォームで、現在は不動産証券化とクラウドファンディングの仕組みを組み合わせたサービスを提供している。特徴は、ハードルが高かった従来の公募での資金調達の常識を打ち破り、個人でも組織でも、誰もが簡単に低コストでプロジェクトの起案者になり少額から公募REIT(不動産投資信託)とほぼ同等の仕組みを活用できること。クラウドリアルティは、来たるべき分散型社会の新しい資金調達モデルとなり得るのか。
前編では、株式会社クラウドリアルティ CEOの鬼頭武嗣氏に、創業のきっかけやビジネスモデルについてお聞きした。
誰もが簡単に低コストで資金調達と出資ができる新しい仕組みが必要
―― クラウドリアルティを始めたきっかけはどのようなものでしょうか?
クラウドリアルティを設立する前は、メリルリンチの投資銀行部門で、不動産セクターのカバレッジバンカーとして活動していました。不動産関連の上場企業やJ-REITなどの資金調達を手伝い、主幹事として総額8,000億円以上、シ団※1も入れると1兆円以上のIPOや公募増資を執行してきました。また、不動産投資銀行部も兼務していたため、実物不動産の証券化などにも携わっていました。
※1 「シンジケート団」の略語。資金調達の際に発行する有価証券の引受責任を分散するために、複数の証券会社や登録金融機関が集まって結成される引受業務のための団体のこと。
その際に強く感じたのは、パブリックな市場からエクイティファイナンス※2などのリスクマネーを集められる人は限られているということです。上場企業や上場REITなど、上場という高いハードルをクリアしていることが前提になっています。
※2 新株発行のように、エクイティ(株主資本)の増加をもたらす資金調達のこと。基本は返済期限を定めない資金調達として財務体質を強固にする効果がある。
誰もが、もっと簡単に低コストで資金調達できる新しい仕組みが必要だと思い、2014年12月にクラウドリアルティを立ち上げました。資金調達する側も出資する側も、これまで市場にアクセスできなかった人にも機会を提供できる新しい仕組みです。
構想を始めたのは2013年ごろですが、海外ではすでに有価証券が絡むクラウドファンディングのビジネスモデルが登場していました。当時、一般的にはキックスターターなどが注目されていましたが、本質的な部分はキャピタルマーケットを扱う投資銀行ビジネスと非常に似ていると思っていました。
クラウドリアルティとは
不動産に特化したP2P型の投資銀行プラットフォーム。不動産証券化とクラウドファンディングを組み合わせることで、一般の幅広い出資者からの公募での資金調達を可能にし、さまざまな不動産関連プロジェクトの実現につなげる仕組みを提供している。
https://www.crowd-realty.com/
―― プロジェクトとなる不動産は、どのような方法や基準で採用されるのでしょうか?
資金調達される方が、起案者として持ち込むケースが多いです。クラウドリアルティはあくまでも投資銀行機能を担うプラットフォームという立場であり、自分たちで物件を持ってきて「これでビジネスしたいから誰か運用してください」という発想ではありません。あくまでも、資金を集めたい人がいれば、それをサポートするという姿勢です。
本質的には、クラウドリアルティはP2Pモデルであり、B2Cの投資ファンドではありません。AirBnBのようなものを想像していただくとわかりやすいです。誰もがホスト(起案者)とゲスト(出資者)両方の役割を担うことができ、そのマッチングをしているようなものです。市場の創出が目的であり、自分たちがその市場に入ってプレーヤーとして収益を上げるという発想はありません。
―― 不動産金融の世界でP2Pモデルというのは、非常に真新しく感じますね。
シェアリングエコノミー系のサービスとして見ると、AirBnBやUber、日本でもメルカリなど、P2Pモデルのプラットフォームは多いです。他にも、スキルをやりとりしたり、空間をシェアしたりするサービスもありますが、不動産金融に関してはそうかもしれません。
実際、クラウドリアルティが使っている証券化スキームは法定スキームではなく、サービス実現のために我々が独自に開発したものです。

従来の評価基準や価値観から外れる不動産にも目を向けたい
―― 誰でも低コストで資金調達や出資ができるようにとのことですが、現在の不動産金融市場ではそこに課題があるのでしょうか?
従来からある資金調達の仕組みというのは、特定の金融機関、行政、監督官庁や業界団体が決めた枠組みや条件があります。しかし、世の中を広く見てみると、そのような枠組みから外れてはいるけれど資金調達が必要なケースというのが多く存在します。
たとえば不動産業界では、1981年に建築基準法の改正があって耐震基準が変わりました。それ以降は、新耐震基準をクリアした不動産でなければ投資対象から除外されることが多くなりました。また、収益不動産ではクラス分けがされており、発行体によっては東京のAクラス以上でなければ投資対象から外れるなど、さまざまな線引きがされています。
しかし、不動産資産というのは世の中に無数にあります。1981年以前に建築されたものや東京以外の物件もたくさんあります。民間事業者ではなく、地方公共団体などのパブリックセクターが所持している物件もあります。そのような多様な不動産が参加できるように、画一的な枠組みを取り払いたいと思っています。
―― 出資する側も、これまで不動産投資とは無縁だった方でも参加できるように間口を広げるということですね?
そのとおりです。できるだけマーケットを広く捉えたいと考えています。こういう言い方をすると、社会的な意義や情緒的な話に受け止められがちですが、もちろんそういう側面もありますが、目指しているのは完全にインクルーシブで普遍的な資本市場を作り出すことです。
やはり、すべての人が参加できるユニバーサルな市場であることは、非常に重要だと考えています。すべての不動産が資本市場を通じて資金調達ができ、それらに対して誰もが簡単に出資できるようにしたいです。
―― 不動産をどのように運営していくかは、誰がどのように決めるのでしょうか?
実際の運営は、事業者が行います。わかりやすい例でいえば、星野リゾートがあります。星野リゾートは宿泊施設を運営していますが、実は物件のオーナーではありません。オーナーは星野リゾート・リートという上場REITで、その裏側には個人投資家や機関投資家など、星野リゾートの外の人々がいます。そういう人々が、パブリックな市場をとおして間接的に保有し、それを星野リゾートが「星のや」として運営しています。クラウドリアルティが作っている市場も同じ構図で、事業者のリクエストを受けてパブリックREITの組成をサポートしているという感覚です。
―― 株式の場合は、事業者に対して株主が意見を伝える場として株主総会があります。クラウドリアルティでは同様の機能はあるのでしょうか?
まず起案者から出資者に向けたコミュニケーションとして、四半期ごとに各プロジェクトのレポートを出すようにしています。また、オフラインでも起案者と出資者をつなぐミートアップなどを実施しています。いずれも起案者によるIRのような位置付けですが、今後はこれらの要素もシステムに落とし込みつつ効率化させていこうと考えています。

金融ビジネスならではの不確実性リスクや規制による影響
―― 同じクラウドファンディングでも投資型で対象が不動産の場合、どのような特徴があるのでしょうか?
購入型と比べると、プロジェクトの不確実性という点では、不動産にしても事業にしても相対的に高いと言えます。もちろん、リスク要因などの説明はしますし保険などでカバーできるように対策も練りますが、不動産なので火事や災害などで建物がダメージを受ける可能性はあります。
また、京都のプロジェクトでは宿泊施設として運営されますが、宿泊事業からの収益も不確実性を伴います。たとえば、6月15日から民泊新法が施行されましたが、こういった法制度の変化に影響を受けることもあります。
―― 資金調達となると金融領域に踏み込むことになります。スタートアップとして起業し、サービスを立ち上げるにあたって、いろいろと苦労されたのではないでしょうか?
金融は特に厳しい領域かもしれません。特にグローバルで資金調達をしようと思うとさらに難しくなりますね。ブルー・スカイ・サーベイと言っていましたが、まず調達しようとする国や地域のレギュレーションを確認したうえで、その各地のレギュレーションに沿って調達を執行する必要があります。
弊社は現在日本のライセンスしか持っていませんが、早く海外のライセンスも取得してグローバルオファリングにも対応していきたいと考えています。
そもそも、金融機関を一から作るということが簡単ではありません。スキームの確認や金融商品取引業の登録手続きで金融庁、国交省、関東財務局と何度も折衝する必要がありました。
また、クラウドリアルティでやろうとしている、とにかく簡単に低コストで不動産を証券化して電子募集を行う仕組みをシステムとして構築する必要もありましたし、何より公募で資金調達を行った経験がある人もほとんどいませんので、コンセプトを人々に理解してもらうことも大変でした。
それでも、ちょうど2014年ごろにフィンテック(Fintech)という言葉が流行り始め、ロボアドバイザーや資産運用などの領域でサービスや会社を立ち上げる人たちが出てきていました。それを横目に見ながら、簡単ではないが不可能でもないと思っていました。
※後編では、株式会社クラウドリアルティ CEOの鬼頭武嗣氏に、実施したプロジェクトや目指すゴールについてお聞きします
インタビュー実施日:2018年6月19日
構成:仲里 淳
写真:渡 徳博
Profile
鬼頭 武嗣(きとう たけし)
株式会社クラウドリアルティ
代表取締役
2007年3月に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。Boston Consulting Groupを経て、2010年6月にメリルリンチ日本証券株式会社入社。投資銀行部門にて不動産業を中心とした事業会社及びJ-REITのIPO・公募増資の主幹事業務、不動産の開発証券化に関するアドバイザリー業務など多数の案件を執行。2014年12月、株式会社クラウドリアルティを設立し代表取締役に就任。内閣府の革新的事業活動評価委員会の委員並びに一般社団法人Fintech協会の理事も務める。