分散型ビジネスの潮流:クラウドリアルティ 鬼頭武嗣氏― P2Pで開かれた資本市場の創設に挑む[後編]

分散型ビジネスの潮流:クラウドリアルティ 鬼頭武嗣氏― P2Pで開かれた資本市場の創設に挑む[後編]

「クラウドリアルティ」は、資金調達者と出資者をP2Pでマッチングする投資銀行の機能を担うプラットフォームで、現在は不動産証券化とクラウドファンディングの仕組みを組み合わせたサービスを提供している。特徴は、ハードルが高かった従来の公募での資金調達の常識を打ち破り、個人でも組織でも、誰もが簡単に低コストでプロジェクトの起案者になり少額から公募REIT(不動産投資信託)とほぼ同等の仕組みを活用できること。クラウドリアルティは、来たるべき分散型社会の新しい資金調達モデルとなり得るのか。
後編では、株式会社クラウドリアルティ CEOの鬼頭武嗣氏に、実施したプロジェクトや目指すゴールについてお聞きした(前編はこちら)。

クラウドリアルティに対する出資者の期待や動機はさまざま

―― クラウドリアルティで実際に出資する方の動機や価値基準はどのようなものでしょうか? やはり投資による収益を望んでいるのでしょうか?

 

もちろん利回りという人も多くいます。ただ、クラウドリアルティでは、利回りだけを打ち出すようなことはしておらず、プロジェクトを評価するための数ある指標の1つでしかありません。

 

たとえば京都のプロジェクトでは、「自分の地元が京都なので、町並みを守りたい、好きな町なので支援したい」「京都に旅行に行って泊まったらいい体験になりそうなので、関わってみたいと思った」、あるいは「資金を集めている事業者を応援したい」といった方がいました。また、「クラウドリアルティのコンセプトが面白そうだから投資してみた」というケースもあります。

 

十人いれば、十人なりの価値基準や判断がありますが、サービスとしては市場参加者の多様性と参加者同士を直接つなぐ直接金融ならではの良さを活かしていきたいと思っています。

 

クラウドリアルティの根底にあるのは、普遍的なものを作りたいという思いです。利回りだけで見てしまうと、結局はすべての不動産を利回り順に並べて、「これ以下は無理だな」と判断して切り捨てることになります。

 

利回りだけで判断すると投資対象外でも、別の評価軸が入ってくることで投資対象になることもあります。リスクもリターンも1つの物差しでは測れない。その物差しをもっているのは出資をしている1人ひとりで異なるものです。

起案者、出資者、利用者などによるエコシステムを作り出していきたい

―― これまでのプロジェクトでは、どのようなものが成功しましたか?

 

京都の事例は上手くいったものの1つで、多様な出資者が集まり、プロジェクトとして成立しました。現在はリノベーションが完了し、宿泊施設として運営されています。

 

もともとは空き家で、既存の金融機関などからは価値がないとされていた不動産です。それがクラウドリアルティのプロジェクトによって実際に運用され、収益を生み出し、新たな経済活動につなげることができました。さらに、そこに海外からの旅行者が泊まったり、町内に活気が出たり、目に見えない間接的な効果も含めてプロジェクトとして前進していると思います。

 

―― 地域性があるプロジェクトですが、起案者、出資者、利用者によるエコシステムが生まれているのでしょうか?

 

それが一番の目的と言ってもいいです。自律したエコシステムを、1つひとつのプロジェクトで作っているようなものです。それらのエコシステムには、出資者や事業者がいて、不動産が絡むので地域住民、京都の方々、町作りに関わる方々などが参加していることになります。

 

クラウドリアルティでは、「お金を集めたら終わり」ではなく、むしろお金を集めてからがスタートだととらえています。起案者が中心となって、集めたお金でどのようにエコシステムを作るか、その中で価値を循環させて、実際の経済的社会的な活動につなげるか。そこに力を入れてサポートしています。

 

ファイナンスとは将来の不確実性を取り扱う役割で時間の概念は切っても切り離せませんので、その不確実性も含めたエコシステムをどう築けるか。3年、5年といった時間をみんなで乗り越えて価値を創造していくという取り組みをプラットフォームとして支えていく姿勢です。

 

―― エストニアのプロジェクトも実施されていますね?

 

エストニアはスタートアップ界隈を中心にようやく日本でもよく耳にするようになりましたが、国としてIT産業に力を入れています。首都のタリンでは人口増加が続いていますが、一方でロシア統治時代の古い建築物が今でも数多く残っています。

 

この人口増加や建物の老朽化・陳腐化にあわせて住宅も対応していく必要があり、不動産デベロッパーたちのプロジェクトが増えています。しかし、銀行からの融資を十分に受けられないものもあり、資金ニーズが高まっています。そういった資金調達をサポートしているエストニアの地元企業と組んで、資金調達がしづらい不動産開発やリノベーションプロジェクトに対して、日本の資金をマッチングしていっています。

株式会社クラウドリアルティ CEO 鬼頭武嗣氏
株式会社クラウドリアルティ CEO 鬼頭武嗣氏

投資銀行として地方でのエクイティファイナンスも担う

―― 地方自治体のニーズも高そうですが、相談されることは?

 

日々多く寄せられています。多くの地方自治体で遊休不動産や空き屋の問題を抱えています。また、特に中心市街地で、シャッター商店街になっているようなものも多いです。その中には、自治体からも再生したいという声が聞かれるものもあります。同じ地域に住んでいて、価値観やコンテクストなどを共有している人々も多いので、エコシステムを作るうえでの一定の下地はあると考えています。

 

―― これまでは地元の銀行や信用金庫などが支援していたような案件ですね?

 

地域金融機関などが対応していたのはデットファイナンス(貸し付け)ですので、もっと深いところのリスクマネーが圧倒的に足りていませんでした。

 

このリスクマネーを供給するためにエクイティファイナンスを担う機関の1つが投資銀行、特にプライマリー業務と言われる有価証券の発行などを担う部門なのですが、これは東京に一極集中しており地方にはほとんど存在していません。クラウドリアルティには、日本の隅々までカバーするプライマリー市場のネットワークを新たに作るという意義もあると思っています。

最終ゴールに対して実現できているのはまだ1%

―― 事業の進捗状況として、目指しているゴールに対してどの段階でしょうか? 当初の想定どおり、順調に成長しているとお考えでしょうか?

 

滑り出しとしては、うまく立ち上げられたと思っています。出資者ごとに価値基準を持っているというお話をしましたが、伝わっている人には正しく伝わりつつあると感じています。ただ、本当にやりたいこと、目指しているゴールからすると、まだ1%くらいしか達成できていません。

 

目指しているのは「1人の例外もなく誰でもアクセスできる市場」です。それを実現するためには、プロジェクトを京都だけでなく全世界にも広げて、出資者も日本の居住者だけでなく全世界に広げていく必要があります。各国の法律そのものを変えるために働きかける必要もあると思っています。

 

―― テクノロジーで解決できることもありますか?

 

ありますね。クラウドリアルティはメタに捉えると、将来の不確実性を伴う価値交換のプラットフォームなのですが、究極的には価値交換には通貨すらいらないとも感じています。高い流動性を確保しながら相対取引が成立するなら、通貨は不要ですから。

 

ただ、そのためには自分が欲しいものと相手が欲しいものを適切なタイミングで交換できるようにする必要がありますが、それが非常に難しいのです。その1つの解決策として通貨があるわけですが、インターネットの発達で全世界の人と効率的にコミュニケーションできる現在では以前に比べて交換相手が見つけやすくなっていますし、市場に流動性を供給するためのさまざまなアプリケーションも生まれてきているので、通貨以外の選択肢もあると思っています。

みんながお金を介さない価値を考えることで価値そのものの交換が可能になる

―― 現在は便利だから通貨を介して価値を交換しているけれども、別の手段で代替するということでしょうか?

 

そうです。どうしても通貨に交換しようとした瞬間に、それがいくらなのかと客観視され、通貨という物差しで価値が測られることになります。しかし、価値観というのはそれだけではありません。

 

1人ひとりがお金を得るために費やしたモノや時間があります。お金で媒介しないとすると、それらの費やしたモノや時間同士が直接交換されるということです。たとえば、町家の再生の際にお金を出す代わりに、現物出資として必要な電化製品を提供するという形も、極論するとあり得るでしょう。

 

本来お金は媒介手段でしかなく、それを持つ意味は現実世界で何かに交換したときに初めて生まれます。そのお金を目的なく持ち続けているのは、時間を犠牲にして何に交換するかという意思決定を先送りにしているということです。選択肢を増やしながら、何に使うか、何が欲しいか、何がどういう価値なのかを自分の中で決め切れていない状態です。最後の意思決定をみんなができるようになれば、もっと価値の交換はスムーズになるのではと思います。

 

そして「価値」というものは「価格」と違って主観的なものなので、1人ひとりが考えるしかなく、しかも正しい答えはありません。その主観的な意思決定を適切なタイミングでできるようになることが大切だと思っています。

株式会社クラウドリアルティ CEO 鬼頭武嗣氏

将来は不動産に限らない「価値交換のためのプラットフォーム」を目指す

―― 価値交換プラットフォームということは、必ずしも不動産に限定されるものではないということでしょうか?

 

はい。不動産は多くの人が価値を感じるものの1つであり、他にもいろいろなものを乗せることができると思います。コモディティもあるかもしれません。

 

また、現在はプラットフォーム自体が中央集権的な形態になっていますが、将来的にはそこにメスを入れていく必要もあると思っています。

 

―― ブロックチェーンやトークンエコノミーの話題でも、突き詰めていくと昔の物々交換に戻るという話がありますよね?

 

ブロックチェーンは分散型のアーキテクチャを実現し、エコシステム内、特にサイバー空間での価値交換を容易にするものとして現在活用できる有効な手段の1つだとは思っていますし、そういった話題の中でイメージされている世界観は私のイメージとも近いかもしれません。

 

―― Blockchain Insightでは分散型社会がテーマの1つですが、鬼頭さん自身は分散型社会が到来するとお考えですか?

 

まさに、クラウドリアルティが目指している社会は分散型のアーキテクチャでないと実現できないと思っています。価値交換をするというのは、価値観が近い人どうしのエコシステムが形成されることだと思っています。価値観はさまざまですから、その数だけコミュニティやエコシステムも分散していくことになります。一部の中央集権的な基準でなく、多様な価値基準に基づく分散化された社会になっていくのではないでしょうか。

 

インタビュー実施日:2018年6月19日
構成:仲里 淳
写真:渡 徳博

Profile

鬼頭 武嗣(きとう たけし)
株式会社クラウドリアルティ

代表取締役
2007年3月に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。Boston Consulting Groupを経て、2010年6月にメリルリンチ日本証券株式会社入社。投資銀行部門にて不動産業を中心とした事業会社及びJ-REITのIPO・公募増資の主幹事業務、不動産の開発証券化に関するアドバイザリー業務など多数の案件を執行。2014年12月、株式会社クラウドリアルティを設立し代表取締役に就任。内閣府の革新的事業活動評価委員会の委員並びに一般社団法人Fintech協会の理事も務める。