エネルギービジネスとブロックチェーン #2インフラ民主化時代の資金調達

エネルギービジネスとブロックチェーン #2インフラ民主化時代の資金調達

前回の記事では、電力の規制緩和と自由化の流れを振り返り、いままで内部で完結されていた取引が外部化されるようになったこと、太陽光発電や風力発電の変動型再生可能エネルギーの増加に伴い、需要家が持つ分散型エネルギーリソース(DER;Distributed Energy Resources)が電力システムの運用に利用されること、P2P電力取引という新しいアイデアが生まれ、それを実現するプラットフォームが開発されていることを説明した。第2回では、エネルギーインフラの民主化に対して、どのようにブロックチェーン技術とICO(Initial Coin Offering)を活用できるかを考えたい。

インフラ民主化の道はまだ半ば

かつて電気のインフラの上流にある発電所は大規模集中型であり、国営企業や大資本によって建てられていた。しかしここ10年で進んだ太陽光発電や風力発電技術のコスト低下により、発電所を建設するハードルはずいぶん下がった。小規模なものであれば、家庭の屋根、遊休地、工場の敷地などに建てることが可能である。分散化とともに、エネルギーインフラの民主化を進める下地はできてきたと言える。

 

日本では、固定価格買取制度が始まった2012年から2015年くらいまで太陽光発電ブームが起こり、主に投資目的で「メガソーラー」と呼ばれるメガワット級の(1MW=1000kW、1MWの発電所で200軒程度の電力をまかなえる大型の)太陽光発電所が日本全国に建設された。この規模になると、やはり億単位の資本が必要になり、土地の調達や開発能力を持ち、資本力のある企業しかメガソーラー太陽光発電所を建設することはできない。

 

現在の制度下では、企業や国民の電気料金に上乗せされる「再生可能エネルギー発電促進賦課金」を原資とした売電収入が発電事業者の懐に入る仕組みである。発電所の所有者が外資系の投資銀行なども含む大資本であれば、国民がそれらの企業を潤わせているという見方もできる。発電所が建設された地方の恩恵は限られているのに、発電事業者(首都圏や外資系企業など、発電所が建設された地域外にあることが多い)には20年間に渡り収入が保証されている。

 

収益の大部分が大資本に流れる構造に加え、地域外の企業が景観を損なう工事や大規模な造成工事を伴う発電所を計画するなどして、地元から反対を受ける事例もある。このような状態だと、まだ特定の大資本に権力が集中しており、真のインフラ民主化の仕組みづくりはまだまだと言える。

新しいエネルギーインフラ投資の形

そこで、地域主体の電力事業を作る動きが大きくなってきた。いままで地域外に流出していた資金を地域内で循環させ、地方創生にも役立てるというのが地域電力事業のコンセプトの一つである。たとえば、鳥取県全体(人口56万人)では年間で約1000億円もが電気代として県外に流出するという試算[1]がある。自治体や地元企業が出資し、地元の人材を雇用し、地域新電力会社を設立・運営することで、資金が地域内で循環する。31の自治体が新電力事業を開始済み(2017年8月時点)[2] であり、150の自治体が検討中[3]である。

 

地域のためという大義名分はないが、太陽光発電所などのインフラを所有し、そこから得られる収益を投資家に分配するインフラファンドも出回っている。この方法だと、太陽光発電の所有権や運営権が証券化・小口化されるので、個人投資家の参加が可能で、投資金額も1口10万円以下(2018年10月調査)と小口投資が可能である。

 

インフラファンドには上場ファンドと非上場ファンドがあるが、2015年4月に東京証券取引所では東証インフラファンド市場が創設され、2018年10月現在、5銘柄が上場している。上場ファンドであれば、流動性も確保でき、好きなタイミングで購入・売却できる。投資家を集めることができれば、インフラの民主化を進めるのには適した道具のように思える。

再生可能エネルギー発電所の資金をICOや仮想通貨で調達

海外ではブロックチェーン技術を再エネ発電所の建設のための資金調達に使うという事例も出てきた。オーストラリアのエネルギーブロックチェーン企業Power Ledger社は、再生可能エネルギーの導入を加速することを目的に2018年10月にAsset Germination Event(AGE)の開催を発表した。これは、今まで大資本しか投資機会がなかったエネルギー資産に、個人投資家などのリテール投資家が投資し、共同所有を可能にする仕組みである。

 

同社はすでに2017年にICOを行い、POWRというトークンを発行し上場させていたが、新たにAGEトークンという新規のトークンを発行する予定である。AGEトークンは証券の性質を持つ「セキュリティートークン」であり、エネルギー資産の一部を表象する。そして、オーストラリアの規制にも対応するということなので、投資家保護対策もきちんと行うようである。

 

Power Ledger社以外にも、南アフリカ共和国のThe Sun Exchange社はビットコインも使える資金調達プラットフォームを2015年から運営し、すでに5件の太陽光発電所案件で資金調達を完了させ、稼働させている(2018年10月現在)。同社は、大資本が手をつけないような1MW以下の小規模な案件に特化しているようだ。システムにはブロックチェーン技術を使っており、世界中から資金を集めることができるほか、手動で行うと面倒な収入の配分などもスマートコントラクトで効率的に行うことができる。

図1 The Sun Exchangeの資金調達および運営の仕組み(出所:https://thesunexchange.com/project/nioro-plastics-473-kw-blackheathなどを基に著者作成)

ブロックチェーンの特徴をエネルギーインフラ投資に活かせるか

ブロックチェーン技術の特徴をエネルギーインフラの資金調達に活かせるとすれば、次の4点があると考える。

1. 取引の正当性や透明性の保証

ブロックチェーン技術は正当な権限を持つユーザーによる正しい取引であることを保証し、後に検証可能にする。また、取引を偽造したり正当な取引を抹消したりすることはできない(あくまで取引の正当性・透明性であり、案件の正当性や透明性は別の話である)。

2. スマートコントラクトによる自動化

たとえば、従来手動で行っていた収入の配分などの処理をスマートコントラクトにより自動で行うことができる。さらにデジタル化された支払い手段を使えば高速に処理を行うことができ、結果として取引コストを下げることができる。

3. (上記2と併せ)資産のトークン化により、小口投資が可能

従来であれば1件あたりの取引コストが高かったため、多量の小口投資を集めるのは難しかったが、資産のトークン化により資産を細分化することができ、上記2の自動化により効率的に処理することが可能となった。結果として、多量の小口投資にも対応できる。

4. 流動性の確保

資産をトークン化し、トークンの取引市場で売買できるようにすることによって流動性を確保できる。投資家は、任意のタイミングでトークンを売買できる。

 

上述したように、個人投資家が小口で投資でき、かつ任意のタイミングで売買が可能な上場インフラファンドなどがすでにあるため、ブロックチェーン技術の上記1~4の特徴により、インフラ投資の世界が劇的に変わることは考えづらい。

 

もし可能性があるとすれば、ブロックチェーン技術は以下のような使い方で特徴を発揮できるのではないだろうか。ひとつは、デジタル通貨が特定の一国の通貨ではないという性質を利用して、魅力的なプロジェクトに世界中から資金を集めることだ。魅力的というのは利回りが高いことに限らない。たとえば、実証されていないが大きなポテンシャルを秘めた技術や、途上国の人々の暮らしを大幅に向上させる社会性の高いプロジェクトも含む。

 

もうひとつは、上述の地域のエネルギーシステムを作るための便利な道具としての使い方である。利便性の向上により、投資家の裾野が広がり、より多くの投資家が参加できるような仕組みづくりに役立つ可能性はあると考える。また、地域通貨と組み合わせ、地域の資金循環を広げるアイデアもあるが、普及させるのは難易度が高いと考えている。

 

もちろん、両者の場合とも、規制に対応し、投資家保護の対策は行わなければならない。規制が整備されていないICOでは多くの詐欺案件があったと言われているが、公共インフラのための新しい試みが詐欺や基準を満たさない低品質な案件に使われることは避けなければならない。

 

[1] 第34回太陽光発電シンポジウム  一般社団法人太陽光発電協会  2017年12月12日
[2] 朝日新聞  2017年8月14日
[3] 第34回 太陽光発電シンポジウム 一般社団法人太陽光発電協会  2017年12月12日

 

Profile

解説:大串 康彦(おおぐし やすひこ)
プラントエンジニア、電力会社勤務を経て、米国企業でブロックチェーンのエネルギー分野での事業開発に取り組んでいる。