![DApps市場の開拓者:グッドラックスリー 井上和久氏[後編]― ブロックチェーン上であらゆるエンターテインメントを実現する](https://blockchain-insight.ch/jp/wp-content/uploads/sites/2/2018/12/kazuhisa-inoue-img-5-1600x1000.jpg)
ブロックチェーンゲームは「DApps(分散型アプリケーション:Decentralized Application)」とも呼ばれ、トークンエコノミーを構成する要素として重要な役割を担う。CryptoKittiesなどの成功事例も出てきているが、ブロックチェーンならではのゲーム設計や収益モデルの構築などについて、業界では議論と模索が続いている。そんな中、株式会社グッドラックスリーは株式会社セレスと日本初となるイーサリアム上のブロックチェーンゲーム「くりぷ豚」を共同開発し、「ブロックチェーンとDAppsに全社を挙げて注力する」と宣言した。
後編では、同社の創業者であり代表を務める井上和久氏に、開発中のDAppsプラットフォームや今後の展望についてお聞きした(前編はこちら)。
未知の領域で試行錯誤することにスタートアップの存在意義がある
―― ブロックチェーンゲームやDAppsの可能性や将来性について懐疑的な人も少なくありませんが、どう思いますか?
常識的に考えると、まったく未知数で先はわからないと考えるのは当然です。しかし、10年、20年やり続ければ、世の中が追いついてきて受け入れられると私は信じています。どうやれば成功するのか、儲かるのかという方程式がみんなに見えた時に参入したのでは遅いです。少なくとも、その時点で参入することにスタートアップとしての価値はあるのかと。
批評家は、「DAppsなんてユーザーは集まらないしマネタイズもはっきりしていないから可能性は低い」というかもしれません。でもそれは、自分でやっていないから見えていないだけ。机上の論理だけでは見えないものがあります。自分でやっていれば、集客やマネタイズをどうすべきかは見えてきます。
自分が生まれた意味やDAppsに取り組む価値を考えてみませんか。ブロックチェーンやDAppsで、私たちが試行錯誤することが自分の人生はもちろん、世の中にとって大きな価値になるわけです。単に儲けたい、地位を得たい、有名になりたいだけなら、市場が見えて整ってから、資本の力で満を持して参入しても良いでしょう。一方で、現在の市場創出期に、ブロックチェーンやDAppsに取り組んでいる人たちは、仮説が立ちづらい時代に、仮説検証のPDCAを回して、社会的な価値、製品的な価値を見出すこと自体を楽しんでいます。

―― 起業家として、スタートアップとして、ブロックチェーンの開拓者でありたいと?
そうですね。実際、ユーザーの母数はまだまだ小さいですし、マネタイズも試行錯誤の段階です。でも、いま盛り上がっている取引所のビジネスだって、「暗号通貨って怪しいよね」と言われていた時代に、彼らが試行錯誤してきたからこそ市場ができたわけです。成功が見えてから参入するのも作戦の1つですが、どうなるかわからない段階で参入するのもまた1つの作戦であり生き方だと思っています。
ブロックチェーンに最適化したプラットフォームを開発
―― ブロックチェーンを使ったプラットフォーム「RAKUN(ラクン)」とはどのようなものでしょうか?
「RAKUN」は、ブロックチェーン技術を用いた基幹インフラシステムです。プロジェクトの開始当初は「LuckyMe」という名称で、steemが実現しているようなソーシャルメディアの投稿に対するリワード(報酬)システムを考えていました。しかしプロジェクトを進めていくうちに、くりぷ豚をはじめとするDApps市場が広がっていきそうだと確信したことと、私たちが目指すビジョンの中でリワードは求める機能の一部でしかないということに気づきました。そこで、全体のコンセプトや提供機能を見直し、名称とともに2018年11月にリニューアルしました。

RAKUNのプロデューサーである畑村匡章(グッドラックスリー取締役)は、もともとDeNAの「モバゲータウン(現Mobage)」を立ち上げた人間です。モバゲータウンがフィーチャーフォンに最適化したプラットフォームとするなら、RAKUNはブロックチェーンに最適化したプラットフォームといえます。
ブロックチェーン技術を利用して、ゲーム、メディア、コミュニティ、アバター、バーチャルアドベンチャー、ファンタジー、スポーツ、投げ銭、デジタル通貨取引など、あらゆるエンターテインメントをRAKUNで実現していきます。まずは、ブロックチェーンゲームプラットフォームとしてローンチして、その後にゲーム以外のブロックチェーンアミューズメントにも拡張していきます。最終的には、バーチャルアミューズメントとして(映画・小説作品の)『レディ・プレイヤー1』のような仮想現実の世界を実現していきます。
―― RAKUNは「リアルとバーチャルな世界をつなぐ新たな経済圏」を謳っています。暗号通貨によってそれを実現するのでしょうか?
ビットコインは、アルトコイン(代替暗号通貨)の交換手段として広く利用されているように、しっかりとした経済的な価値や意味を持っています。
「暗号通貨は仮想(バーチャル)でしかない」といわれますが、バーチャルな世界を中心に生きていて、ネット上の人格こそが本来の自分だという人もいます。常にリアルが基点でバーチャルがあるということではなく、バーチャルのほうが、自分にとっての現実という世界観や生き方も選べるわけです。私たちのブロックチェーンゲーム事業も仮想だといわれるかもしれませんが、近いうちにグッドラックスリーの売上の大半がイーサリアムになるかもしれません。そのような企業がすでにありますし、これから数多く出てくるでしょう。これは円ベースでしか世界や市場をとらえていない人には理解できないかもしれません。
こうしたブロックチェーンがもたらす未来が、最初から見通せていたわけではありません。私は予言者ではないので、いきなり正確な未来を見通すことはできません。しかし、DAppsの先頭を走っているからこそ見えてくる景色というものがあります。未来が正確に見えないからこそ、破壊的なイノベーションであり、実際に取り組んで、手を動かして汗をかいて試行錯誤してはじめてわかってくることがたくさんあります。破壊的イノベーションに向き合ったことのある起業家が共通して持っている感覚でしょう。

―― 経済圏の構築やスタートアップの資金調達手段として、ICOをどのようにとらえていますか?
私はICOに対して、一貫してポジティブな見方をしています。これまで10億円を超える調達を経験してきましたが、エンタテインメントビジネスでは資金力が大きな武器になります。また、スタートアップが死の谷を乗り越える手段としても、非常に有効だと考えています。
資金調達の手段としては、エクイティファイナンス(Equity finance)とデットファイナンス(Debt finance)には相乗効果ありますよね。エクイティで調達するとデットが借りやすくなります。逆に、デットで借りてつないでいる間にエクイティの交渉をして、いい条件を引き出すこともできます。同じように、ICOでの調達も、エクイティとデットとの相乗効果があると感じています。新たにICO、最近ではIEO(Initial Exchange Offering)やSTO(Security Token Offering)という資金調達の選択肢が加わることは、スタートアップにとっては歓迎すべきでしょう。
セキュリティ(証券)トークンは、その方向に進みつつあるように思えます。私たちの事業の特性上、まずはユーティリティトークンを使うことになりそうです。それは、ゲームという明確な用途があるので、トークンに価値を持たせやすいからです。最終的には、ユーティリティトークンとセキュリティートークンどちらにもチャレンジしていきたいと考えています。
課題としては、やはり安心安全をいかに担保できるか。本来はリスクマネーなので、投資家がそのことを承知していることが前提ですが、投資家と事業家のコミュニケーションにズレがあると問題が起きてしまいます。リスクとリターンはセットなので、ICOもリスクを正しく理解したうえで出資できる環境を作っていくことが大切です。
福岡発、日本発、アジア発として世界を目指す
―― 「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」の設立や実証実験の実施など、福岡はブロックチェーン都市として注目されています。ブロックチェーンビジネスに適した環境なのでしょうか?
スタートアップにとって大切なことは、トレンドに乗ることと地に足をつけることだと考えています。東京はたしかにトレンドの最先端かもしれませんが、トレンドには波があり、トレンドに乗っかっただけの人は波が下がったときに降りてしまいます。一方、事業をやるというのは、地道にコツコツと積み上げていくことも必要です。福岡は、ネガティブなトレンドのときでも物理的に離れているので影響を受けにくく、結果としてコツコツ続けることができます。そして、コツコツ続けているうちに次の波に乗ることができます。
また、「風は西から吹く」という言葉がありますが、福岡は、日本の西端に位置しており、日本の元気な地方都市のトレンドを創り出すには絶好の場所です。ただし、アジアという大きな視点で見ると、福岡のさらに西には香港やシンガポールがあります。それならば、西からトレンドの風を吹かせるために、私たちはもっと西へ西へと行ってみようと(笑)。
私たちは、すでにシンガポールや香港に拠点を設けました。これからは、福岡発というアイデンティティを大切にしながらも、それだけに固執せずに、アジア発というより大きな視点で、ビジョンとして掲げる「世界中の人々の心をつなげて笑顔にする」ことを実現していきます!
インタビュー実施日:2018年10月25日
構成:仲里 淳
写真:友澤 綾乃
Profile
井上 和久(いのうえ かずひさ)
代表取締役社長兼グッドラッカー
1980年生まれ。福岡県出身。東京大学工学部卒業。前職ドリームインキュベータでは、インターネット・モバイル・コンテンツ分野を統括。「ブロックチェーン×エンターテイメントで世界最先端を走る」というビジョンを掲げ、国内初ブロックチェーンゲームの「くりぷ豚」、「クリプトアイドル」、ブロックチェーンアミューズメントプラットフォーム「RAKUN」などを手掛ける。「さわって!ぐでたま」シリーズ累計400万DL突破。「エアリアルレジェンズ」累計200万DL。地域発企業ドラマ「人生のメソッド」シリーズは、福岡国際映画祭2018上映作品。