エネルギービジネスとブロックチェーン#3電力取引プラットフォームに第二の波を起こすには

エネルギービジネスとブロックチェーン#3電力取引プラットフォームに第二の波を起こすには

前回の記事では、国や大資本が主役であったエネルギーインフラ投資が民主化され、インフラファンドや仮想通貨を使った資金調達方法が広がっていることを紹介、ブロックチェーン技術の特徴をエネルギーインフラ投資に使うことのメリットについて考察した。今回は、エネルギー分野でのブロックチェーン技術の応用で最も多くの企業が開発に取り組んでいる電力取引プラットフォームの普及に関して考えたい。

2016年に始まった第一の波

2016年にはエネルギー分野に初めてブロックチェーン技術が持ち込まれ、新しい未来を予見させるワクワクするような実証実験が世界中で始まった。まず、2016年4月に米国のベンチャー企業LO3 Energy社が米国ニューヨーク州のブルックリンの一角でBrooklyn Microgridの運用を開始した。これは屋根置きの太陽光発電装置で発電されたローカルでクリーンな電気の価値を、ブロックチェーン技術を用いてで近隣住民がpeer-to-peer(P2P)に取引するというものである。太陽光発電などの分散型電源が普及した時代に近隣の需要家同士で電気をシェアするという新奇なコンセプトが注目された。

 

次に、5月には米国ニューヨークのナスダック本社にて、米国西部に置かれた太陽光発電装置で発電された電力をFilament社(米国ネバダ州)のIoT技術を用いてNasdaq Linqというブロックチェーン基盤のマーケット上で取引可能な証書に変換するデモが実施された。これにより、電気がデジタルアセット化され、ブロックチェーンを使い簡単に取引できることが示された。

 

続いて8月にはオーストラリアのベンチャー企業Power Ledger社がオーストラリア西部のNational Lifestyle VillageにてP2P電力取引の実証実験を開始した。同社はさらにニュージーランドの配電事業者Vector Ltd.と連携し、ニュージーランドのオークランドでも実証実験を行った。これはLO3 Energyと同様、分散型エネルギーリソースが普及した世界での新しい電気の取引方法を先取りする取り組みの開始であった。

 

実現方法の違いはあるが、電力情報をデジタル化してブロックチェーン上に記録し、取引を行うという点はこれらの試みに共通している。その後、ブロックチェーン技術を用いた電力取引プラットフォームの開発や運用を手がける企業は欧米、オセアニア、アジア、南米に広まり世界中で約60にも膨れ上がった(筆者の記事に一覧を公開)。2016年から今までが電力取引プラットフォーム普及の第一の波と言え、概念実証の実施が中心である。

Workする方法を世界中で試している

それでは、電力取引プラットフォームを開発する企業は商用運用に向けてどの段階にいるのだろうか。公開情報をもとにこれを調査した結果を図1に示す。実証実験に着手した、または着手の目処がついた企業は40%を超える。一方、商用運用、商用案件を持つに至った企業は全体の約10%であり、多くの企業が商用運用に行き着いていないことがわかる。

 

図1 電力取引プラットフォーム開発企業の状況(2018年12月調査)N=57(出所:著者調べ) ※同じ電力分野でも、資金調達プラットフォームや電気自動車の充電管理など電力の取引に関わらないものは含まない

これはどう解釈すればよいのだろうか。まず、電力取引プラットフォームの代表的ユースケースは需要家同士のP2P電力取引であるが、そもそも小売電気事業者の登録なしに需要家が他の需要家に電気を販売することはできない。おそらく世界中同じルールであり、P2P電力取引を法的に可能にするためには現状の法制度を変える必要がある。

 

また、多くの事業者が既存の送配電ネットワークを使用するP2P取引を考えている。既存の送配電ネットワークは電力事業者が需給管理や系統運用を行っているが、P2P電力取引の位置づけは未整備であり、電力事業者や規制当局との調整なしに事業を展開するのは難しい。さらに、P2P電力取引の分の電力料金を従来の電力事業者が課金請求する電力料金ときちんと分けるための情報連携も必要であり、ハードルは多い。

 

電力取引プラットフォームでの電力取引を実現する方法の一つとしては、マイクログリッド(※1))や自営線ネットワーク(※2)の中で電力取引を行う方法がある。この方法だと上述した法制度や電力系統運用ルールにも抵触せずに運用を行える可能性がある。しかし、そのようなネットワークをすぐに見つけることは難しく、ゼロから構築するにも費用や時間がかかってしまう。

(※1)マイクログリッド:分散型電源、電力貯蔵装置、電力負荷がネットワークを形成する集合体で、独立して運用されるか既存の電力ネットワークに接続して運用される。

(※2)自営線ネットワーク:自社で設営した専用のネットワーク

電力取引プラットフォーム開発企業は、法制度や既存電力事業者との調整が商用化の障害となっているかもしれない。加えて、取引を実現する方法、電力取引の対象となる電力ネットワークなども開発企業によって違いがある。もちろんビジネスとしての展開方法は一つではない。現在は、世界中で各企業が実験をしながらうまくいく方法を探している状態と言えるのではないだろうか。

 

さらに、各国・各地域で電力システム、関連制度、人々のニーズや行動様式は異なっており、電力取引プラットフォームを使ったビジネスは各国・各地域によって異なる可能性が高い。現在、商用(自称を含む)のプロジェクトは少数あるが、これらが成功したとしても無条件で別の国や地域に横展開できるわけではなさそうだ。電力取引プラットフォームを使ったビジネスがどのような条件で成り立つかを確認することも現在行われている実験の一部と言える。

第二の波を起こすために法制度の整備が鍵になる

2018年8月にはブロックチェーン技術はガートナー・ハイプサイクルの期待過剰のピークを超え、幻滅期に入ったと報告された。技術の発達やそれを応用したビジネスの展開が過去数年で膨らんだ期待に追いつかず、人々の関心が薄れていく時期である。ブロックチェーン技術を応用した電力取引プラットフォームもこのトレンドを踏襲するのだろうか。2019年には、電力取引プラットフォームの「第一の波」が始まってから3年になるが、執筆している2019年初現在、一気に普及を迎える気配は見えない。

 

しかし今後、世界で実証実験を行った企業の中から、実験を超えた形にたどり着き、「商用」フェイズに移行する企業が現れると考える。商用に移行する方法を見つけられない企業は、2019年も実験を繰り返すか、淘汰されてゆくだろう。この動きはおそらく比較的ゆっくり進み、実証実験が一回りするまであと数年かかるかもしれない。

 

図1で示した「商用プラットフォーム運用」「商用案件」に分類される企業も、まだ確固たるビジネスモデルを確立したとは言い難い。「商用」ではあるものの、試行錯誤の続きに近いと言える。しかし、商用段階の企業が増えてくると、そのうち革新的で洗練されたビジネスモデルを展開する企業が現れても不思議ではない。

 

最初の実証実験は実験施設や少数の実顧客と始めることが多いが、概念実証が成功すれば次はスケールを増して実ビジネスに近い規模で実証したいと考えるのが自然である。このとき、施設内や小規模な実験では問題にならなかった法制度の制約が足かせとなる場合が多いだろう。法制度の制約がなければ、進化させた技術を早く展開できる。

 

ブロックチェーン技術を用いた電力取引プラットフォームが普及するためには新しい法制度の枠組みが必要であることは明白である。これを最初に行う国が現れ、全世界に波及するというのが考えられるシナリオである。次の大きな波、第二の波は分散型エネルギーとデジタル技術の時代に即した法制度の変更が起こるときかもしれない。

 

Profile

解説:大串 康彦(おおぐし やすひこ)
プラントエンジニア、電力会社勤務を経て、米国企業でブロックチェーンのエネルギー分野での事業開発に取り組んでいる。