DAppsプロジェクト「Gene A.I.dols(ジーンアイドル)」始動! 開発メンバーが語る誕生秘話とAI×ブロックチェーンの活用

DAppsプロジェクト「Gene A.I.dols(ジーンアイドル)」始動! 開発メンバーが語る誕生秘話とAI×ブロックチェーンの活用

2019年2月14日(バレンタインデー)に、バーチャルアイドルのDAppsゲーム「Gene A.I.dols(ジーンアイドル)」が発表された。「Gene A.I.dols」をひと言で説明するなら「自分だけのバーチャルアイドルを作ったり集めたりできるゲーム」で、ブロックチェーンを用いたDAppsでもある。
一見するとよくあるコレクティブル(収集)系ゲームのようだが、その裏ではAI(人工知能)による顔画像生成や音声合成、さらにブロックチェーンによる真の所有性の実現など、最先端の技術がふんだんに使われている。どのようなきっかけで企画が生まれたのか、AIやブロックチェーンはどのような役割を果たしているのか、開発メンバーの西村祥一氏と小幡拓弥氏に聞いた。

アイドルの「遺伝子」をブロックチェーンに記録

―― DAppsゲームプロジェクト「Gene A.I.dols(ジーンアイドル)」が発表されました。ゲームの特徴やプロジェクトの概要について教えてください。

 

西村祥一氏 Gene A.I.dolsはいわゆるバーチャルアイドルですが、「バーチャルだけど現実にいそうなリアルな容姿」「1人ひとり容姿や声に個性がある」「ユーザーと会話ができる」「既存のアイドルから新しいアイドルを生み出せる」といった特徴があります。

 

それぞれのアイドルは固有の人工遺伝子をもち、2つとして同じ顔や声のアイドルは存在しません。さらにアイドル2人の人工遺伝子を掛け合わせることで、新たにアイドルを生み出すことができます。人工遺伝子とは、「遺伝子」という名前のとおりアイドルを生み出す際に元となるデータです。これをブロックチェーンのトークンにすることで、ユーザーが完全な所有権をもち、自由に譲渡や交換ができます。

 

最初にどんなアイドルが手に入るか、それらを掛け合わせてどんなアイドルを生み出せるかがゲーム的な要素となります。また、アイドルは単なる静止画ではなく表情や動きをもっていて、ユーザーとの対話も可能になる予定です。お気に入りのアイドルを手に入れて、眺めたり、おしゃべりしたり、コレクションしたりするといった楽しみ方もできます。

 

開発は、ICOVO AG(イコヴォ)※1株式会社オルツ株式会社データグリッドの3社によるプロジェクトとして行われており、それぞれがもつ得意技術や専門性が盛り込まれています。

※1:ICOVO AGは本誌「Blockchain Insight」の運営も行っている

Gene A.I.dols公式サイト

―― ブロックチェーンを使ったDAppsということですが、提供形態はどのようになりますか?

 

小幡拓弥氏 最初の段階では、ブラウザー向けのウェブアプリとしてリリースします。イーサリアム上で動いているので、ウォレットとしてメタマスク(Metamask)などが必要です。イーサリアムの利用が前提なので、やはりターゲットユーザーは多少なりとも暗号通貨の利用経験がある方を想定しています。ただ、「自分だけのアイドル」というからには、「いつも連れて歩きたい」「誰かに見せたい」という希望が出てくるはずなので、スマホにも早期に対応させるつもりです。

 

また、ゲームとしてより幅広いユーザー層に楽しんでもらうには、暗号通貨ゆえのハードルを極力なくしていく必要があります。ゆくゆくは、一般的なクレジットカードも利用できるようにしたいと考えています。Gene A.I.dolsは、プロジェクトとして段階を踏みながらバージョンアップと機能追加をしていきます。第1フェーズは今年の春ごろにリリースする予定です。

トークン化によって生まれる「所有性」と「拡張性」

―― どのようなきっかけでこの企画を思いついたのでしょうか?

 

西村氏 バーチャルアイドルのDAppsとしてはすでに「Crypko(くりぷこ)」や「CryptoKanojo(クリプト彼女)」があります。それぞれ特徴がありますが、AIによるキャラクター画像生成やそれらを掛け合わせて新たなキャラクターを生み出すところが非常におもしろいと思いました。

 

私もエンジニアとして、ICOVO AGではブロックチェーンに、オルツではAIに関わっています。2つの技術を組み合わせたものとして、このGene A.I.dolsを思いつきました。CrypkoやCryptoKanojoとの違いは、アイドルのビジュアルがイラスト風ではなく実写のようにリアルな女性の画像であることと、声にも個性があってユーザーとの対話ができるところでしょうか。

 

西村祥一氏。ICOVO AGと株式会社オルツのCTOを務める

 

小幡氏 アイドルをブロックチェーンのノン・ファンジブル・トークン(NFT:Non-Fungible Taken)※2として扱うところは、ネコのキャラクターを用いた「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」という先例があります。コレクティブル系ゲームでアイテムをNFT化することの意義としては、大きく2つあります。

※2:ブロックチェーンによる固有性・唯一性が保証された代替不可能なトークン。イーサリアムではERC721として規格化されている

1つ目は、ブロックチェーン上にトークンとして記録しておくことで、消滅することがないということです。たとえゲームの提供が終了したり運営会社が倒産したりしても、ブロックチェーンがある限り存在し続けることができます。ユーザーにとっては「真の所有」であり、これまでにない確たる所有感を得られるというのはDAppsならではのものです。

 

2つ目は、ブロックチェーン上に展開していることで第三者による拡張が期待できるという点です。Gene A.I.dolsでは、人工遺伝子の情報はトークンとしてブロックチェーン上に記録されており、それをもとにジェネレータが容姿画像や声などを生成します。ジェネレータの開発と運用はわれわれが主体となって行いますが、生成された画像や声質などはIPFS(分散ストレージ)上に置くようにして、システム的にも利用規約的にも2次利用しやすい形にするつもりです。

 

すべてを非中央集権的にすることは難しいのですが、それでもゲームの垣根を越えることはできます。CryptoKittiesのネコにアイドルが乗ってレースをするというゲームが出てくるかもしれません。もしくは、新しいゲームを作るところまではいかなくても、アイドルのコンテストといった遊びはユーザーどうしでできますし、アイドルを交換したりレンタルしたりできるマーケット機能なども構想にあります。

 

小幡拓弥氏。ICOVO AGではCOOとしてブロックチェーンを中心とした企画・開発に携わる

ユーザーの人工遺伝子からもアイドルが誕生!?

―― Gene A.I.dolsにおいてもっとも重要な要素は人工遺伝子だとあらためて感じました。具体的にはどのようなものなのでしょうか?

 

西村氏 人工遺伝子はアイドルの生成に必要とされるパラメーター情報で、トークン化してブロックチェーン上に載せます。顔、声、会話のパターンはそれぞれ数百次元のベクトルですから、かなりの多様性があります。2人のアイドルから新しいアイドルを生み出すときは、それぞれの特徴を受け継ぎつつランダム性も加えることでオリジナリティのあるものになります。もとのアイドルにある程度似ることはあっても、まったく同じアイドルが生まれることはまずありません。

 

このあたりの生成アルゴリズムに関しては、あえて表に出さないほうがユーザーの想像を駆り立てますし、検証したり追究したりする遊びや面白さが生まれると思っています。将来的には、ユーザー自身の顔画像や音声から人工遺伝子を生成して、それをアイドルの人工遺伝子と掛け合わせて新たなアイドルを生み出すことも考えています。現実世界にいる人間が、人工遺伝子を介してバーチャル世界に入りこむ。そうなると、ゲームとしてのおもしろさはさらに広がります。

 

アイドルどうしだけでなく、アイドルとユーザーの人工遺伝子を掛け合わせて新たなアイドルを生み出すこともできる

ディープラーニングが生み出すリアルな非実在少女

―― Gene A.I.dolsでは、AIを活用しているということですが、具体的にどのような部分でAIが使われているのでしょうか?

 

西村氏 AIをどう定義するかによりますが、Gene A.I.dolsにおけるAIとは機械学習やディープラーニングということになります。たとえば、顔画像を生成するところではGAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)というディープラーニングの仕組みを利用しています。GANを使うと、画像を生成する側とそれを識別する側のAI(ニューラルネットワーク)を勝負させることで、短期間で生成画像の精度や品質を高めることができます。Gene A.I.dolsの顔画像生成では、最初に実在する女性の顔写真を使って学習させたうえで、GANによる高品質の顔画像を生成しています。サンプル画像を見ると実在する女性のように思えるかもしれませんが、すべてAIが作り出した非実在少女ということになります。

 

またアイドルの声についても、機械学習によって音声モデルを生成することで自然なものになっています。音声合成を使って「ある人の声」で自由に発声させようとすると、従来はその人が事前に多量のサンプル文章を読み上げて、その音声データを分析して音声モデルを作る必要がありました。しかしGene A.I.dolsでは、ごく少量の音声データから音声モデルを生成できる話者適応という技術を使うことで、個性をもつ多量の音声モデルを手軽に作り出しています。アイドルは顔と同じように声も固有のものをもっており、その情報も人工遺伝子の中に記録されています。アイドルどうしを掛け合わせる際には、声質も遺伝することになります。

 

―― 対話も可能ということですが、それぞれのアイドルには性格のようなものがあって、環境によって変化したり、遺伝したりするのでしょうか?

 

西村氏 対話機能の実装は、少し先の話になります。対話エンジンの技術などは見えていますが、アイドルの個性としてどのように位置づけるのか、どのくらい高度なものにするのか、環境による変化や成長といった要素を盛り込むかどうかなどは、まだ検討段階です。今のところ、生まれた時点ですでに何らかの性格をもつようにはしようと考えています。

アイドルの全身化やVR対応を視野に今春リリースをめざす

―― 今後の意気込みについて聞かせてください。

 

西村氏 まだ開発途中ですが、顔画像の生成はできるようになっています。リリースまでの進捗状況を公式サイトで報告していければと思っています。まだ構想段階で確定していないことも多いのですが、最終的には顔だけでなく身体まで加えていきたいです。身体があると、踊ったり着せ替えできたりと表現力が増しますし、VR対応やVTuber化などもしやすくなります。開発のハードルは高いですが、多くのユーザーに利用してもらえばプロジェクトを継続できるので、リリースされたらぜひ遊んでもらいたいです。

 

小幡氏 DAppsゲームとして、サードパーティによる広がりやユーザー主導の企画などにも期待しています。もちろん、開発元としても盛り上げるためのキャンペーン企画なども考えているのでご期待ください。また、今回はアイドルがテーマですが、既存の人気キャラクターに置き換えるなどプラットフォームとしても発展性があるモデルだと思います。IPコンテンツをおもちでDAppsゲームに興味のある企業の方がいらしたら、一緒に何かやりたいですね。

 

 

インタビュー実施日:2019年2月1日
構成・写真:仲里 淳

 

Profile

西村 祥一(にしむら よしかず)

ICOVO AG CTO/株式会社オルツ CTO

早稲田大学在学中に、DNAコンピューティングの研究に従事。その後、南カリフォルニア大学にて計算分子生物学修士号を取得。2005年、日本オラクル株式会社にコンサルタントとして入社。2011年、株式会社リンクアンドパートナーズ取締役に就任。2013年、株式会社コンプス情報技術研究社を設立し、代表取締役に就任。自然言語処理・機械学習などの学術系案件の開発・コンサルティングを行う傍ら、ブロックチェーン技術研究に特化したG.U. Lab株式会社を分離し、モバイル向けウォレットTachyon WalletやEthereum開発エコシステムへのツール開発・提供を精力的に行う。2017年11月、株式会社オルツのCTOに就任。2018年3月、スイスのツークにICOVO AGを共同設立してCTOに就任。Global Blockchain Summit 2016ではブロックチェーン技術による位置情報プラットフォームを提案し、Best Innovation Awardを受賞。共著書に『はじめてのブロックチェーンアプリケーション~Ethereumによるスマートコントラクト開発入門』(2017年、翔泳社)がある。

 

小幡 拓弥(おばた たくや)

ICOVO AG COO

2011年 国立電気通信大学大学院 情報工学専攻卒業。キヤノン株式会社で産業用ロボット開発に携わった後2014年よりフリーランスエンジニアとして独立し、対話エンジンやレコメンデーションエンジン等のプロジェクトに参画。2016年にブロックチェーン関連の開発を行うWLTC株式会社を設立し、取引所のバックエンド開発やトークンのスマートコントラクト開発等を行う。2018年7月ICOVO AGのCOOに就任し、暗号通貨による資金調達市場の健全化に尽力中。事業オペレーション全般を統括しつつ、自身も開発者としてICOVOのプロダクトDAICOVOやGene A.I.dolsのコードを書いている。専門分野は主にブロックチェーン、自然言語処理、ゲームAI。将棋AIで各種大会上位入賞、一部の部門で2011-2015年連続世界首位。