エネルギービジネスとブロックチェーン #04 エネルギー分野のICO最新動向

エネルギービジネスとブロックチェーン #04 エネルギー分野のICO最新動向

前回の記事では、エネルギー分野でのブロックチェーンの応用の中で最も多くの企業が開発に取り組んでいる電力取引プラットフォームの黎明期から現在を振り返り、今後の展開の可能性について考察した。今回は、エネルギー分野でのICOを取り上げる。まずICO全体のトレンドを俯瞰したのち、エネルギー分野のICOの現状と今後について考察する。

ICOの現在

ICOは急激な増加が起こった2017年を経て、2018年の前半には毎月100件を超すICOが実施され、活況を呈した。しかし、2018年後半から下降傾向をたどり、最近の2019年1月は24件にとどまっている(Coin Scheduleによる)。同サイトによる2016年1月から2019年1月の月間ICO実施件数を図1に示す[1]。

図1 2016年1月から2019年1月のICO実施件数 (出所:https://www.coinschedule.com/stats.htmlのデータを基に筆者作成)

[1] 出典によって数字が異なるが、2016年から現在までのデータを提供しているという点でCoin Scheduleからデータを引用した。傾向を見るのには十分と考える。他の情報源はICObenchCoindesk ICO trackerなど。

 

図2にはICOによる資金調達額の推移と同時期の暗号通貨の時価総額を示す。暗号通貨の時価総額の推移とはピークがずれるが、傾向としては同じであり、現在は下降期にある。2018年3月および6月のピークはそれぞれ超大型ICOであるTelegramEOSによる影響が大きく、1つの案件でそれぞれ17億USドル(約1,870億円[2])42億USドル(約4,620億円)を調達している。

[2] 為替レートは1USドルあたり110円で換算

図2 2016年1月から2019年1月のICOによる資金調達額および暗号通貨全体の時価総額 (出所:https://www.coinschedule.com/stats.html, https://coinmarketcap.com/charts/のデータを基に筆者作成)

エネルギー分野のICO概観

Coin Scheduleによると、2018年に実施されたICOのうち、エネルギー分野(Energy & Utilities)のプロジェクトが調達した金額は3.22億USドル(約354億円)であり、全体の1.5%を占める。前年の2017年の第2四半期から2018年の第1四半期までで見ると、エネルギー分野のブロックチェーン関連のスタートアップ企業の調達額はほぼ同じ規模の3.24億USドルであり、そのうち75%(2.43億USドル)がICOにより調達されたという報告もある。これらのデータから、2017年、2018年に行われたエネルギー分野のICOでの調達額は年間2.43億USドルから3.22億USドル(267億円から354億円)であることがわかる。

 

また、参考までに、2012年から2016年の米国のベンチャーキャピタルによるクリーンテック業界(環境・エネルギー業界)への投資額は毎年50億ドル程度(約5,000億円)であり、上記のICOによる調達金額はこのうちの5-10%を占めている。資金調達手段としては無視できるほど小さくもないと言えるだろう。しかし、前述したTelegram, EOS等のような超大型ICOがまだ存在しないのも特徴であり、エネルギー分野での最高調達額はおそらくWePower社の4,000万ドル(44億円相当)である。いままで実施されたエネルギー分野の主なICOを表1に示す。

[3] 2018年6月のレート(1BTC=750,000円、1Qtum=1,300円)で換算

2018年に起こったICO縮小の影響はエネルギー分野にも及び、目標未達や中止の案件が相次いでいる。米国Greentech Mediaの報告によると、分散型エネルギーのコミュニティー構築を目指したHive Powerは2018年6月に実施したICOでの調達額が目標額に届かず、調達資金を投資家に返還することになったという。電力取引プラットフォームの開発を手がけていたProsumeも、プレセール実施後、メインセールを中止したとのことである。

 

XIWATTGreen Power Exchangeのように2018年の前半にICO実施をアナウンスしていた(筆者調査による)が、実施した形跡が見られない案件もある。Swytchは2018年6月にはICOを実施し、その後暗号通貨取引所にトークンを上場させたが、2018年9月以降のトークンの動きがなく、その実態は不明である。一時は、「誰でもホワイトペーパーで事業計画を公開すればICOで資金調達できる」と言われていたが、2018年以降は難しさが増していることは確かである。

(出所:各種公開資料から著者作成)

エネルギー分野のICOの今後

エネルギー分野のICOのホワイトペーパーに記載されている調達資金の用途を見ると、一部のICOでは、ICOで調達した資金をプラットフォームの開発や運営に使用するだけではなく、その一部を直接太陽光発電所などの資産に投資する事例もある。例えば、Astrn Energy(2019年2月現在サイトは停止中)やPower Ledgerなどの案件である。

 

第2回の記事では、ビットコインで資金を調達し、小型の太陽光発電所を建設するThe Sun Exchangeという南アフリカ共和国のスタートアップ企業を紹介した。これはICOではなく、トークンの発行はないが、投資家は太陽光発電所の一部を所有し、リース料金の還元を受けるという投資性のあるスキームである。

 

エネルギー分野は公共インフラ的な意味合いが大きく、発電所等の設備への投資が伴うことから、資産の一部を表象したトークンというのはトークンの用途の1つとして十分考えられる。その場合、ICOで販売するトークンが証券トークンと見なされ、証券規制の対象となることは避けられないだろう。

 

トークンの発行、ICOや暗号通貨を使用したクラウドファンティングが既存の証券規制の対象となると、スタートアップ企業が厳しい金融規制に適合して事業を行うのは難しくなるのではないか。

 

一方、ビットコイン研究所の大石哲之氏によると、ICOは、株式会社など他の資金調達手段を持つ企業にとっての資金調達手段ではないという。同氏によると、ICOは非中央集権型プロトコル(分散型アプリケーション)にとっての唯一の資金調達手段であるという。確かに、初期(2015年頃まで)のICOを見ると、イーサリアム、Maidsafe, Storj, Factomなど、企業主体ではなく、オープンソースでボランタリーな非中央集権型プロトコルのための資金調達であるものが多いことがわかる。

 

しかし、詐欺的案件から投資家を保護するという現実的な課題に対応するために規制が強化されている現実を鑑みると、「非中央集権プロトコルの唯一の資金調達手段」としてのICOは過去のものとなり、「規制に対応する能力を持ち、かつICOのメリットを享受できる案件を持つ事業体が行う資金調達手段」と変容してしまったのでははないか。

 

金融規制に適合して、非中央集権プロトコルの資金調達手段としてICOが残る可能性も残っている。その場合、イーサリアムのように非中央集権プロトコルはインフラとして機能し、その周辺のアプリケーションが繁栄して収益を上げることが期待される。エネルギー分野で非中央集権プロトコルによるインフラとなるものが電力取引プラットフォームなのか別のインフラ的プラットフォームなのか何かは現時点では分からないが。

 

金融業界の知識を備えた組織が発行する金融規制に対応した投資性のある証券トークンの販売と、金融規制に対応しつつも非中央集権プロトコルとしてインフラ的機能を負う案件のトークンの販売が、エネルギー分野でのICOの未来ではないだろうか。

 

 

 

Profile

解説:大串 康彦(おおぐし やすひこ)
プラントエンジニア、電力会社勤務を経て、米国企業でブロックチェーンのエネルギー分野での事業開発に取り組んでいる。