ブロックチェーンは同業他社の参加を促す ― ソニーミュージックがアマゾンサービスで音楽権利処理システムを構築

ブロックチェーンは同業他社の参加を促す ― ソニーミュージックがアマゾンサービスで音楽権利処理システムを構築

6月11日、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は、ブロックチェーンを使った音楽クリエイター向けの権利情報処理システムを発表。その基盤としてアマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(AWS)が提供するクラウドサービス「Amazon Managed Blockchain(AMB)」を採用したことも明らかにされた。AMBの導入事例としては国内初であり、音楽業界では世界初になるという。

ブロックチェーン基盤としてアマゾンのクラウドサービスを採用

ソニーグループでは、これまでも教育分野や権利管理システムの分野でブロックチェーンの技術研究を行ってきた。2018年10月に「ブロックチェーン基盤を活用したデジタルコンテンツの権利情報処理システム」を発表済みだが、それに音楽著作権の登録管理機能を追加したものが今回発表したシステムとなる。なお、ブロックチェーンの種類としてHyperledger Fabricを利用しているが、AMBでは今後Ethereumも提供予定としている(2019年6月18日時点では未提供)。

 

同日にアマゾンが開催したメディア向け説明会では、米Amazon Web Service社のラフール・パターク氏がブロックチェーンの基本と最新動向、AMBの事例を紹介。続いて、株式会社ソニー・ミュージックアクシスの佐藤亘弘氏がAWSの活用事例と権利情報処理システムの概要を説明した。

 

発表会自体はAWSの新サービスと導入事例の紹介という意味合いの内容ではあったが、SMEの取り組みからは音楽業界における課題の一面が見えるとともに、クラウド市場におけるAWSの強さやエンタープライズにおけるブロックチェーン採用促進の気配も感じられた。

ラフール・パターク氏 Amazon Web Service, Inc. ビッグデータ/データレイク/ブロックチェーン担当 ゼネラルマネージャー

権利処理作業のデジタルトランスフォーメーションを実現

デジタル化や音楽配信、聴き放題サブスクリプション型サービスなど、エンドユーザーに向けたサービスでは他の業界に先駆けてデジタルトランスフォーメーションを進めてきた音楽業界。ただし、制作サイドを見ると著作権の処理と管理にかかわるわずらわしい作業が大きな負担として存在していたという。今回のシステムでは、音楽著作権の登録管理機能を備えることで、音楽クリエイターの権利情報処理の作業効率と信頼性を高めることができるという。

 

たとえば、複数クリエイターがかかわる共同制作の場合に、各自の同意をブロックチェーン上に記録することで、それらの記録を利用して著作権の登録を効率的に処理できる。おもな対象は、作詞や作曲にたずさわる人間になる(音源そのもの管理はレコード会社などが行う)。また、JASRACなどがかかわる収益管理の機能は、別の領域として今回のサービスの範囲外になる。

 

SMEでは、まず実証実験として稼働を開始して、ゆくゆくは音楽クリエイターだけでなく同業となるレコード会社や音楽出版社などにも参加を呼びかけ、コンソーシアム型チェーンとして運用していくという。

佐藤亘弘氏 株式会社ソニー・ミュージックアクシス 執行役員 情報システムグループ 本部長

「複数の人間がかかわって制作される際、あとで誰の作品かともめることがよくある。それを防ぐために権利処理の細かいペーパーワークがあったが、このシステムを使うことで効率化・負担軽減になる」(佐藤氏)

 

なお、今回の権利情報処理システムは、SMEが4月に発表したサービス「Soundmain(サウンドメイン)」の一環として位置づけられるという。Soundmainは、AIやブロックチェーンといった先端技術を活用して音楽クリエイターの制作を支援するサービスとされているが、その全貌はまだ明らかにされていない。

参考記事:「コンテンツ東京2019」で見つけたコンテンツビジネス×ブロックチェーンの新鋭企業たち ― 現場の課題になっている煩雑な音楽著作権管理を簡略化(ソニー・ミュージックエンタテインメント)

音楽クリエイターの制作支援サービス「Soundmain」。まだサービスの一部を紹介するだけのティザーサイトの状態にある

マルチステークホルダーであることで意識に違い

SMEが発表した音楽クリエイター向け権利情報処理システムは、技術的にはブロックチェーンである必然性は薄いかもしれない。非中央集権・分散推進派であれば、パブリックチェーンでない時点で、その意義がないと考えるだろう。この点に対して、佐藤氏はブロックチェーンを採用した理由を「クリエイターは1つの会社に縛られるわけではない。ソニーだけでやっても効果は薄く、同業他社を含めて参加してもらう必要がある。そのためには、データベースのオーナーがSME1社という形よりも、ブロックチェーンで複数のステークホルダーに運営されている形のほうが他社も参加しやすくなる」と述べた。横のつながりが乏しい業界(これは音楽業界に限った話ではないが)では、マルチステークホルダーであることだけでも意識変化の効力を発揮するため、十分有益というわけだ。

 

ところで、著作物の世界ではビジネス上の権利処理とは別に、権利者が見つからない孤児著作品(オーファンワークス)の存在が問題となっている。商業音楽の場合、これまでは音楽出版社などの企業が権利処理や管理を行ってきた。しかし、デジタル技術の広がりによってプロアマ問わず作品が生み出すことが容易になり、さらに不特定多数との共作も気軽にできる環境のいま、著作権管理はいままでどおりではいかなくなるおそれがある。SMEの音楽クリエイター向け支援という取り組みも、それを想定してのものではないだろうか。そして、企業や時代を超えた、永続性のある情報管理を実現することの重要性が広く認識されれば、コンソーシアム型のブロックチェーンからパブリックチェーンに移行するという将来もありえない話ではない。そう考えると、AMBをはじめとするエンタープライズ向けのブロックチェーンは、業界での認識が代わり、パブリックチェーンの技術が成熟するまでの1つのステップと見ることもできるだろう。

 

また、アマゾンに限らず、マイクロソフト、オラクル、セールスフォースなど、エンタープライズ向けクラウド市場の代表プレイヤーたちが続々とブロックチェーンにも参入してきている。ブロックチェーン市場が拡大することで、エンジニアやスタートアップが育成され、業界全体の技術品質も向上する。メジャーな企業であるSMEの導入事例は、その促進剤として作用するのではないだろうか。

 

文・写真:仲里淳