多様な技術・利害関係者・課題を抱えるブロックチェーンにはオープンな議論が必要 ― Interop Tokyo 2019

ネットワーク技術・製品のイベント「Interop Tokyo 2019」の初日となる6月12日に行われた基調講演の1つ「インターネットから見たブロックチェーンの発展」では、慶應義塾大学の村井純氏をはじめとするBASEアライアンスのメンバーが登壇。鈴木茂哉氏をモデレーターに、パネルディスカッション形式でそれぞれのブロックチェーンに対する取り組みや考えを示しながら討論を繰り広げた。
本稿では、先行レポートとして公開した村井氏のスピーチ部分に続き、基調講演全体の模様をお届けする。

※BASEアライアンス:ブロックチェーン技術全般についての研究・開発や実証実験、国際的な産学連携コミュニティの醸成などに取り組みながら、アカデミアの視点でブロックチェーン関するオープンな議論を行っている組織。「BASE」という名称は「Blockchain Academic Synergized Environment」を意味する

鈴木茂哉氏 慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任教授、慶應義塾大学 SFC研究所 ブロックチェーン・ラボ副代表(技術統括)

中央制御なしに動き続けることが期待されたシステム

まずパネリストが1人ずつ、自分の立場からブロックチェーンについて発表した。

 

最初は村井純氏が、インターネットから見たブロックチェーンについて語った。それは「decentralized」、つまり中央集権ではないこと。インターネットは完全な自律分散システムで、もはや約50年動いている。ブロックチェーンも、さまざまな見方はあるものの中央制御なしに動き続けることが期待されたシステムであることが、インターネットと共通しているという。

村井純氏 慶應義塾大学 環境情報学部教授、大学院政策・メディア研究科委員長、慶應義塾大学SFC研究所 ブロックチェーン・ラボ代表

もう1点、世界中のこれまで経済活動に参加できずにいた人が、インターネットによって参加できるようになった。それをより具体化する仕組みこそブロックチェーンではないかという期待がある。これも、インターネットとブロックチェーンのつながりだという。

 

課題においても、インターネットとブロックチェーンには共通性があると村井氏は言う。インターネットができたときに、すでに電話という国ごとの通話インフラがあった。最初は電話網の上でインターネットが通信し、光ファイバーになり、5Gでネイティブなインフラになった。このアナロジーとして、ブロックチェーンやビットコインのような暗号資産と、既存の銀行の関係がどうなるかが課題だという。

 

「こういったことを考えて、私はブロックチェーンに関わっている」と村井氏はまとめた。

セキュリティと効率性を両立するプロトコルの研究

東京大学の松浦幹太氏とセルビア科学芸術院のミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏は、アカデミックの立場からブロックチェーンのコンセンサスの仕組みとセキュリティ技術について語った。

ミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏 セルビア科学芸術院 数理研究所 所長

ミハエルビッチ氏は最初に、「Blockchain System, Its Components & Design Challenges」と題して、ブロックチェーンに基づくシステムの構造を簡略化した図を示した。ブロックチェーンそのものを構成するのは、コンセンサスプロトコルと暗号コンポーネントの2つの要素だ。

 

ここで課題として、セキュアで効率のよいコンセンサス、専用の暗号コンポーネントの設計、セキュリティの評価の3つをミハエルビッチ氏は挙げた。

 

松浦氏はこれを受けて、スライド書かれている「Design(設計)」という言葉に注目し、単に使うのでなく専用に設計・評価する必要があると語った。

松浦幹太氏 東京大学 生産技術研究所 教授

続いてミハエルビッチ氏はコンセンサスプロトコルの負荷について説明した。オーバーヘッドには、エネルギー負荷(PoW)、メモリ負荷(PoM)、コミュニケーション負荷(BFT)などがあるという。

 

松浦氏はこれに補足し、「計算負荷でなくエネルギー負荷と言っているのは大きな問題ととらえられているからで、計算負荷のように“軽いほうがいい”という程度ではないことを意味している」と説明した。

 

ミハエルビッチ氏は、さまざまなコンセンサスプロトコルを挙げ、セキュリティと効率(PoWとPoM)、柔軟性の条件をすべて満たすコンセンサスプロトコルがないと語った。

 

そして最近の活動として、セキュリティと効率性を両立するプロトコルの研究を紹介した。古くから暗号の解析で使われている「Time-Memory Trade-Off(TM-TO)」という考え方にもとづき、ハッシュ関数の衝突(キーの発見)がどのぐらいの負荷でできるかを評価するという。そして、予想される評価としてTM-TOにもとづくコンセンサスは、時間もメモリ使用量も2/3乗のオーダーになり、エネルギーとメモリーの削減につながると主張した。

セキュリティと効率性を両立するプロトコルの研究

ブロックチェーン的な形で社会を再構築

NTT西日本の真殿由美子氏は、ビジネスの立場からブロックチェーンについて論じた。

真殿由美子氏 NTT西日本 技術革新部 R&Dセンタ

真殿氏はよく言われることとして、「インターネットはメリットが理解できたが、ブロックチェーンはわからない」という言葉を紹介。そして「『少額取引の問題をシステムで解決しよう』というビットコインが目指していた世界って伝わっていないんだなと思った」と語った。

 

そうした理想の一方で現実には、仮想通貨の乱立に手数料の高騰、取引所による本人性確認となり、「理想的なガバナンスの維持は難しい」と真殿氏。経産省や環境省、総務省などでも新サービスの検討が活発で、技術的な難しさより、その後の法整備や運用が課題だと認識されているという。

 

真殿氏自身も、NTT西日本で企画を考えているという。その中から、何を目指すかによって作るものがいろいろ変わることがわかったという。たとえば、「エネルギー地産地消形の社会にブロックチェーン」というテーマでも、地域電力安定を目指す電力融通か、より高く売電可能な需給マッチングかで大きく変わってくる。

何を目指すかによって作るものが変わる

ここで真殿氏は、ブロックチェーンを離れて社会の動きとして、GDPRの法規制とMyData、小さな自分の熱意を表現する「Gen Z(ジェネレーションZ世代)」、企業のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)経営を挙げた。そして、「ブロックチェーンがそのレジリエンスを支える技術であってほしい」として、ブロックチェーン的な形で社会を再構築していきたいと語った。

ブロックチェーンのアプリケーションは「ゲーム設計」が重要

ジョージタウン大学の松尾真一郎氏は、ブロックチェーンの会議に参加しているバンクーバーからビデオ会議で登場。ブロックチェーンのアプリケーションの「ゲーム設計」について語った。

(ステージ背後のスクリーン上)松尾真一郎氏 ジョージタウン大学 教授

松尾氏は、ビットコインについて、「ある種の帳簿をみんなでアップデートする技術」であり、「たまたまお金もうけができるようになった」と説明した。ここで「みんなで」という点が重要であるとし、ノードを維持するためのインセンティブのためにマイニングという「ゲーム設計」がなされたと論じた。

 

さて、ブロックチェーンではビットコインより広いアプリケーションをみな考えている。このとき、サステイナブルに回るためには、さまざまなステークスホルダーにとって都合のいいゲーム設計になっていなければいけないと松尾氏は言う。

 

たとえば、詐欺的なものは社会にとって都合が悪い。そのため規制が必要になるが、規制当局は、規制とイノベーションのバランスなどを考えなければいけない。また、規制当局だけでは追いつかないのでエンジニアといっしょに取り組むことになるが、それはどのようにするか。

 

最後に松尾氏はあらためて、「詐欺などの問題が発生して、ようやく、ブロックチェーンアプリケーションはステークスホルダーのゲーム設計が重要だということがわかってきた」とまとめた。

インターネットとブロックチェーンのセキュリティの違い

ここから、村井氏が各パネリストに話を振っていった。

 

村井氏はまず、インターネットの初期は「インターネットにかかわる人間=俺たち(互いに見知った研究者仲間)」だったため、そもそも信頼は問題ならなかった。そのためにセキュリティが長らく後回しとなり、近年になってセキュリティが考えられるようになったと語った。また、インターネットでは経路の途中で混雑が起きたときなどのトラフィックコントロールの技術は、今でも次々に生まれて改良が行われていることも紹介した。

 

村井氏はこれらを踏まえて松浦氏に、ブロックチェーンでも技術発展のエコシステムができているかが重要ではないかと問いかけた。それに対し松浦氏は、オープンな技術で発展させる必要があることや、ブロックチェーンではセキュリティは最初から考えられていたことを述べた。

 

次に村井氏はミハエルビッチ氏に、ブロックチェーンのセキュリティの問題について質問した。

 

それに対してミハエルビッチ氏は、2つのポイントを挙げた。1つ目は、セキュリティは往々にしてメインの機能ではなく補助的な機能とされがちだが、安全はタダではないため、セキュリティをメインの機能とすべきであること。2つ目は、セキュリティだけでなくプライバシーの問題も重要で、ブロックチェーン技術をプライバシーのコントロールに使えるのではないかということだ。

金融とブロックチェーンの世界が一緒にやっているのは画期的

続いて村井氏は真殿氏に、インターネットやスマートフォンが普及していれば、その上で新しいことをするときの投資コストが低いことを語り、電力使用とマイクロペイメントの可能性について質問した。

 

真殿氏は、まず電力については停電などうまくバランスをとって安定させる必要があることからまた別の問題があると説明。一方で電力以外のマイクロペイメントについては、銀行口座をもっていない人が世界人口の半数ぐらいいて、そうした人にお金を行き渡らせることのできるマイクロペイメントの可能性を語った。

 

また村井氏は松尾氏に、G20のような国家間の世界とブロックチェーンのグローバルの世界が、どう連携していくのかについて質問した。

 

松尾氏は、グローバルな時代ということがようやく認識されたのではないかと語った。金融を各国が規制していたところから、スマートコントラクトを皆が書けるようになって、金融もグローバルの世界と対話しなければいけないと気付いたところだという。そして、いまはまだ答えがないものの、一緒にやっていることがきわめて画期的ではないかと語った。

新たなインフラになるために「Interop」を

最後に村井氏は、ブロックチェーン系の技術は多様で、さらにステークスホルダーや研究の課題も多様であることを、パネルディスカッションの内容からまとめた。そして、そのような全体を見ながら動かしていくには努力が必要だとコメントした。

 

そのうえで、「新しいインフラになるためには、このイベントの名前のように『Interop(相互運用性)』が求められる。そのために、1人ひとりが関心をもって、未来がどうなるべきかについて、自分の意見を入れていくことが必要になる」と語った。

 

 

文:高橋正和

写真・編集:仲里淳