ブロックチェーンスマホ「FINNEY」上陸 ―「DAppsや仮想通貨に触れるきっかけに」SIRIN LABS JAPANインタビュー

ブロックチェーンスマホ「FINNEY」上陸 ―「DAppsや仮想通貨に触れるきっかけに」SIRIN LABS JAPANインタビュー

7月1日、ブロックチェーンスマホ「FINNEY(フィニー)」が発売された。メーカーはスイスに拠点を置くSIRIN LABS(シリン・ラボ)で、開発拠点であるイスラエルのセキュリティ技術が盛り込まれているという。どのあたりが「ブロックチェーン」なのか、また日本市場に対してどのような期待を抱いているのか。国内展開を担うSIRIN LABS JAPAN株式会社のCEOを務める三浦広樹氏に聞いた。

ロシア政府に拒否されるほどのセキュリティ技術

FINNEYの開発元であるSIRIN LABSは、2016年に「Solarin(ソラリン)」という名のスマホを開発・販売。この端末には高度な暗号化技術が組み込まれており、軍レベルの技術をもってしても傍受できない強固さを特徴とする。ロシアで販売しようとしたところ、あまりにもセキュリティレベルが高すぎて政府の承認が下りなかったというエピソードもあるほどだ。それゆえにターゲットの中心は政治家や企業トップといった要人で、価格も約150万円と一般人が手にするような代物ではなかった。

 

一方、世の中ではスマホをはじめとするサイバーセキュリティの必要性が一般層でも高まっている。加えて、仮想通貨のような金融資産そのものをデータとして扱うニーズも増えている。そこで、仮想通貨を手軽かつ安全に扱える、セキュリティレベルの高いスマホとしてFINNEYの開発に乗り出した。開発費用は当時ブームになっていたICOで調達した。

 

「ICOを実施したのが2017年。すでに詐欺プロジェクトも多くあり、ICOのイメージは決して良いとはいえませんでした。ただ、SIRIN LABSはハードウェアメーカーとしての実績があったおかげで、当時のICO歴代4位となる1億5,780万米ドル(約180億円)相当もの資金を調達できました」(三浦氏)

三浦広樹氏 SIRIN LABS JAPAN株式会社 CEO
三浦広樹氏 SIRIN LABS JAPAN株式会社 CEO

2018年にFINNEYは完成して注文の受け付けを開始。そして2019年7月1日から、SIRIN LABS JAPANを輸入代理店、GOLDEX株式会社を販売代理店として日本での販売が始まった。

 

実は、これまでもスイスから直接FINNEYを購入することは可能で、日本国内のイベントで販売されたこともある。したがって、「7月1日から」というのは、あくまでも国内の正規代理店をとおして入手できるようになったという意味だ。ただし、公式実店舗である「SIRIN LABS Store Powered by GOLDEX銀座店」の開店やサポート窓口の設置、ビックカメラなどの大手量販店やECサイトでの販売によって、安心して購入できるようになったといえるだろう。なお、現在の市場価格は税別で125,000円程度と高級機に位置する。

「ブロックチェーンスマホ」の意味するところ

これまで「ブロックチェーンスマホ」を標榜した製品は3つ存在する。HTCの「EXODUS 1」、サムスン電子の「Galaxy S10」シリーズ、そしてFINNEYだ。いずれもウォレットアプリの搭載などをもって「対応」としているが、EXODUS 1は日本未発売、Galaxy S10はドコモからSC-03Lとして発売されているもののウォレットは未搭載だ。このことからFINNEYは「日本で初めての本格的なブロックチェーンスマホ」を謳う。

 

「どの製品もそうですが、ブロックチェーン技術そのものが組み込まれているわけではありません。ウォレットアプリやDAppsストアなどが標準で入っているというものです。より正確に表現するなら、ブロックチェーンに『アクセスしやすい』というイメージでしょうか。FINNEYの場合は、それらに加えてハードウェアウォレットの機能を備えていたり、ブロックチェーンプロジェクトに特化した動画広告アプリがインストールされています。さらに、SIRIN LABSの強みである高度なセキュリティ機能をOSレベルで搭載しています。これらをもって、『ブロックチェーンスマホ』と呼んでいます」(三浦氏)

 

※FINNEYの外観やブロックチェーン関連機能の概要については、公式YouTube動画で確認できる。

Androidスマホにブロックチェーンの付加価値を

FINNEYは、いわゆるAndroidスマホの1つだ。搭載SoC(CPUや通信チップなど)を見れば、性能的にはハイエンドの部類に入る。そのうえで、付加価値としてブロックチェーンやセキュリティ関連の機能が標準で搭載されている。電話アプリやメールアプリも、高いセキュリティ機能を備えた特別なものが用意されている。

 

OSには、セキュリティ面の管理・監視機能を備えた独自の「SIRIN OS」を搭載する。独自OSといってもベースはAndoridで、Google Playで提供されるAndroidアプリが利用できるため、ユーザーは他のスマホとの違いを意識する必要はない。

 

モバイル向けセキュリティ対策技術で知名度のある米国Zimperiumと提携して機能をアップデートし続けるほか、ネットワークからの不正侵入が検知されたら電源シャットダウンする侵入防止システムが搭載されている点は、FINNEYならではの売りといえるだろう。

 

ガジェットとして最大の見所ともいえるコールドウォレットは、本体背面にスライド式のスイッチとして搭載されている。物理的にスライドさせることで初めてトークン専用のストレージ領域にアクセスできる。オンライン状態が明らかに把握できるのでセキュリティ向上につながるというわけだ。

FINNEYのコールドウォレット機能は、背面パーツをスライドさせることでアクセスできるようになる
FINNEYのコールドウォレット機能は、背面パーツをスライドさせることでアクセスできるようになる
スライド部分の表側には小さなディスプレイがあり、暗号資産にアクセスするためのパスコード入力や受信用のQRコード表示ができる
スライド部分の裏側には小さなディスプレイがあり、暗号資産にアクセスするためのパスコード入力や受信用のQRコード表示ができる

ウォレットは、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ライトコイン(LTC)、ダッシュ(DASH)のほか、バイナンス(BNB)やSIRIN独自のコイン(SRN)といったERC20シリーズのトークンに対応する。さらに、もともとはBancorを使ったトークン交換機能も備えているが、こちらは利用時のKYCが不十分と判断されるかもしれないとの懸念から日本版では現在「機能保留」にされている。

ウォレットではさまざまなトークンを扱うことができる
ウォレットではさまざまなトークンを扱うことができる

DAppsストアやトークン付与型広告でビジネス

ブロックチェーン的な要素であり、SIRIN LABSのビジネスとも密接に結びついているのがDAppsストアと動画広告アプリだ。

 

「dCENTER」と呼ばれるDAppsストアは、DAppsに特化したストアだ。アプリを起動すると、CryptoKittiesやEtheremon、OpenSeaなどのよく知られたDAppsが並ぶ。ウォレットに対応したトークンであれば、ユーザーはシームレスにDAppsを利用できるのがメリットが。また、ここに自社のDAppsを登録するには、SIRIN LABSとパートナー契約を結び、掲載料を支払う必要がある。SIRIN LABS側にとっては収益源の1つとなるため、今後は日本国内のパートナーとしてDApps提供者を開拓していくとしている。

「dCENTER」からさまざまなDAppsが利用できる
「dCENTER」からさまざまなDAppsが利用できる

動画広告アプリは、視聴することで報酬としてトークンを得られるというもの。基本的に広告主となるのは新しいブロックチェーンプロジェクトで、ユーザーはエアドロップなどによってトークンを受け取ることができる。

 

「この動画広告には、中間業者をなくすというコンセプトもあります。代理店は不要で、広告主が直接動画を出稿できる仕組みです。FINNEYのユーザーは新しいブロックチェーンプロジェクトをいち早く知ることができるので、広告マッチングという意味では最適です」(三浦氏)

 

報酬として配布されるトークンは、それぞれの広告主が発行しているものが基本になる。そのほとんどは上場していないトークンなので、ユーザーとしてはあくまでも「将来に期待する」というのが実際だ。

 

このほか、将来予定されている機能がリソースシェアだ。たとえば、FINNEYどうしをUSBケーブルでつなぐことで、一方からもう一方に電源供給が行えるバッテリーシェア。機能自体は他社の製品も含めて実現されているが、FINNEYでは供給側へのインセンティブとしてトークンが自動的に付与される。ネットワーク接続(テザリング)、計算能力、ストレージなどを対象に、簡単なトークンエコノミーの形成をめざしているという。

仮想通貨ブームの火付け役である日本に期待

今回の日本展開にあたって、SIRIN LABSでは大きな期待を寄せているという。それは、世界で2店舗目となる公式店舗として「SIRIN LABS Store Powered by GOLDEX銀座店」を開店したことにも現れている。

 

「日本は対国民に対する仮想通貨ホルダーの比率が世界一といわれています。第一次仮想通貨ブームを引き起こしたのも日本でした。FINNEYにも関心をもっていただけると期待しています。銀座の店舗は世界で2店目ですが、3店舗目も日本になる可能性は高いです。ブロックチェーンや仮想通貨に対して、『なんだか怖いもの』というイメージを持っている方は多いです。それを払拭するには、実際にDAppsや仮想通貨を使ってみることが一番。FINNEYはそのきっかけになると思いますし、そのためにブランディングや体験の場として銀座に店舗をかまえました。今後は、販売やカスタマーサポートだけでなく、ユーザーどうしが交流したり、セミナーなどでナレッジを共有できる場にしていければと考えています。ブロックチェーンはインターネットに次ぐ時代の変革。FINNEYをきっかけにその一部に触れてほしい」(三浦氏)

 

日本での販売目標は「2年間で2万台」とのことだが、正直にいって相当高いハードルといえるだろう。端末メーカーとしての実績に乏しいうえ、ブロックチェーンを前面に打ち出しているため大手キャリアとの提携は難しいとしながらも、三浦氏は「だからこそ真面目に取り組んでいかなければならない」と語る。

 

ウォレットやDAppsが当たり前になり、わざわざ「ブロックチェーンスマホ」と名乗る必要がなくなる世界はもう少し先になるだろう。その先陣としてFINNEYがスマホ市場に風穴を開けられるか注目したい。

 

文・写真:仲里淳