Libraは失敗に終わる? 普及の可能性と真のねらいを探る ― BCCC緊急座談会レポート

Libraは失敗に終わる? 普及の可能性と真のねらいを探る ― BCCC緊急座談会レポート

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は7月1日、仮想通貨「Libra(リブラ)」の技術解説と今後の展望に関する緊急座談会を開催した。イベントの前半ではビットコイン研究所の大石哲之氏がLibraの概要と技術について解説。後半では法的観点を含めた今後の展望について、BCCC代表理事の平野洋一郎氏をモデレータに、前述の石井氏、カレンシーポートの杉井靖典氏、弁護士の増島雅和氏による討論が行われた。本稿では、後半の座談会パートを中心にレポートする。

Libraに対する海外での反応と法的・技術的論点

平野洋一郎氏 大石さんは国内外の視点をおもちで今日も座談会のためにベトナムから帰国したばかり。海外でのLibraに対する関心や話題はどのようなものでしょうか?

 

大石哲之氏 ベトナムではほとんど話題になっていないですね(笑)。

 

平野氏 Libraのホワイトペーパーには、金融システムにアクセスできない17億人の問題を解決すると書いてありますよね。

 

大石氏 典型的なベトナム人は銀行を信用していませんし、ほとんどの人は銀行預金をもっていません。一方で、フェイスブックのアカウントは全員がもっています。ですから、Libraは話題にこそなっていませんが意味はあるでしょう。ベトナムでいえば、Libra自体が注目されていなくても、フェイスブックとともに導入されたら、よくわらかないながらも使われるという可能性はあります。

 

平野氏 Libraが各国でどのように捉えられるのかは1つの論点です。増島さん、レギュレーションや法的観点からはどこがポイントになりますか?

 

増島雅和氏 ユーザーとの接点としては、「Libraは仮想通貨なのか何なのか」という話があります。ただ、本質的に一番大事なところは、Libraプロジェクトの一番上でコントロールしている者はいったい誰なのか。彼らがおかしなことをしないと、どこが保証するのかという点です。これを「いやいや、その辺の政府も腐敗していたり、おかしなことをしていたりするじゃないか」という議論でごまかすことはゆるされません。(個人情報の流出問題で)当局から50億ドル(約5400億円)の制裁金が科せられるような存在(フェイスブック)ですから、その辺の投資家が作った団体とは法律が違います。国はそのように考えるので、ここが一番のチャレンジになるでしょう。

 

平野氏 Libra協会に金融機関が参加していないのは、それが関係するのでしょうか?

 

増島氏 金融機関の人がこの仕組みを見たら、金融を熟知しているからこそ逆に「これはかなり大変だ」と考えて参加しなかったということがあり得ます。一方で、銀行のように規制されている側は最初は参加させないが、再販事業者としては銀行も大歓迎といった話もあるので、今後は入ってきてもいいと考えているかもしれません。

(左)平野洋一郎氏 アステリア株式会社 代表取締役社長 CEO、BCCC代表理事 (右)大石哲之氏 ビットコイン&ブロックチェーン研究所代表、一般社団法人日本デジタルマネー協会
(左)平野洋一郎氏 アステリア株式会社 代表取締役社長 CEO/BCCC代表理事、(右)大石哲之氏 ビットコイン&ブロックチェーン研究所代表/一般社団法人日本デジタルマネー協会

“プログラマブルマネー”に可能性を感じる一方でKYCが壁に

平野氏 杉井さん、技術的なポイントはどこでしょうか?

 

杉井靖典氏 本格的なプログラマブルマネーになるという点です。グローバルで支払いに使えるコインになりそうというのは見えています。ペイメントを終えたあとに分配などのポストプロセスを自動化できるなら、経済システムを大きく動かす可能性があります。

 

平野氏 これまでのスマートコントラクトとは違いますか?

 

杉井氏 同じですが、ペッグしているのが法定通貨をベースにした通貨バスケットなので、より使いやすいと思います。

 

平野氏 ペッグしていることとともにKYC(顧客確認)も論点の1つですが、これがないと広く普及しないのではないでしょうか?

 

杉井氏 Libra自体にはKYC機能がなく、自由に作ることもできません。そのなかでKYCやAML(アンチマネーロンダリング)をしっかりできないとしたら、普及は難しいと思うところも一方であります。

 

Libraには匿名性があります。これは「匿名コイン」のような匿名性ではなく、個々のウォレットアドレスとユーザーは直接ひも付いていないという意味です。そして、取引ごとにウォレットのアドレスが変わります。つまり、Libraブロックチェーン上には個人ユーザーを特定する機構がありません。

 

Libraを法定通貨で売買する場合は認定再販事業者がKYCを行えば問題ありませんが、個別に送金しようとすると問題になります。私の予想では、認定再販事業者から「送金認可トークン」を取得して送金トランザクジョンに付与し、ブロックチェーンに投函するという仕組みをプロトコルとして実装するのではないかと考えています。

 

平野氏 杉井さんとしては、LibraそのものにKYCの仕組みが組み込まれていくだろうと?

 

杉井氏 そうしなければ、Libraが法的に認められるようにはならないでしょう。FATF(金融活動作業部会)のガイダンス・ガイドラインが1つの基準になると思います。

杉井氏が予想するLibraの送受金の仕組みとKYCへの対応。認定再販事業者による「送金認可トークン」の仕組みがプロトコルとして実装されるのではないかとする。ただし「これは送金までなら問題ない。しかし、送金先を認識していないので、FATFガイドライン的には不十分」(杉井氏)とも
杉井氏が予想するLibraの送受金の仕組みとKYCへの対応。認定再販事業者による「送金認可トークン」の仕組みがプロトコルとして実装されるのではないかとする。ただし「これは送金までなら問題ない。しかし、送金先を認識していないので、FATFガイドライン的には不十分」(杉井氏)とも

FATF遵守を盾に国の統治者はLibraを拒絶する?

平野氏 増島さん、FATFについてはどうですか?

 

増島氏 仮想通貨におけるFATFの話は大変なことになっています。仮想通貨をどこかに送るとき、FATFガイドラインでは「ワイヤートランスファー(電信送金)の章を守るように」と書かれています。これは、送金先も把握することを意味します。

 

独立ウォレットの送金先までは確認しろとはいわないものの、どこに送ったかの記録は残すようにします。基本的に銀行と同じようにやると明記されていて、業界の人はおどろいています。

 

送金元のほうは認定再販事業者がKYCを担っていますが、送金先にも似た仕組みが必要です。FATFのガイダンスに準じていないと、国ごとに指摘されるという怖いものです。北朝鮮やリビアなどはできていないと名指しされています。これを守らないと金融システムにつながることができないため、各国とも一生懸命守ろうとしています。

 

杉井氏 一方で、分散IDシステムという仕組みも登場しており、そういうものを利用する可能性もあります。ただ、それではブロックチェーンの哲学と相容れない、親和性が低いという見方もあります。

 

増島氏 Libraが何をしているかを各国の統治者になったつもりで考えてみましょう。統治者は自分たちの通貨をもっており、それをとおして権利を行使しています。通貨政策によって、国にもたせたり、税金を集めたりしています。

 

そこにLibraがやって来て受け入れてしまうと、「われわれのビジネスモデルどうなる」となるはずです。その状況で、ウォレットを自国のユーザーに開くにはKYCのルールを守らなければならず、そのためには免許が必要だとします。結局、Libraを使わせるかどうかは統治者がコントロールできます。

 

途上国であれば、ユーザー目線では「それは便利だ」と思うかもしれません。しかし統治者の目線に立てば、「なんてことをしてくれるんだ!」という話で邪魔したくなります。統治者が行使できる権利として「禁止」があるわけです。ゲームとして見たら、国の単位では統治者側が勝つのではないでしょうか。

(左)杉井靖典氏 カレンシーポート株式会社 代表取締役 CEO/BCCC理事、(右)増島雅和氏 森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士/2016年経産省ブロックチェーン検討会委員/BCCCアドバイザー
(左)杉井靖典氏 カレンシーポート株式会社 代表取締役 CEO/BCCC理事、(右)増島雅和氏 森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士/2016年経産省ブロックチェーン検討会委員/BCCCアドバイザー

「一発目の花火で終わる」「使われる」―― 分かれる評価と普及予想

平野氏 KYCは、Libraに限らず業界全体が直面している課題でもありますね。話を戻して、ずばりLibraは普及するでしょうか?

 

大石氏 私は普及するとは思えません。技術的にも内容的にもつまらないですし、設計と実際に運用するものでズレがあります。ユースケースもかなり危なげで、実際にこれがどう使われるのか想像しづらいです。このまま一発目の花火で終わるのではないでしょうか。

 

平野氏 ちなみに、ビットコインの敵になりますか?

 

大石氏 法定通貨といったものに裏付けられていない、独自の価値を持つP2Pの資産であるビットコインはすばらしいとして、その価値が見直されると思います。

 

杉井氏 私は使われるのではないかと思っています。プログラマブルなプラットフォームと捉えているので、そこは逆に丸投げしてもらったほうがいいです。多くのアプリケーション事業者が出てきて、そのアプリ内での支払いに使われるコインとして可能性はあります。ただし、そこには法律の壁もあって苦労すると思います。あとはスケーラビリティがまるっきりないのが課題です。10億人が使えるとは到底思えません。

 

平野氏 オープンソースソフトウェアとして進化していくという点はいかがですか?

 

杉井氏 可能性はあります。たとえばセカンドレイヤーやサイドチェーンのようなものができるのか。ただ、現状はスケーラビリティに関して先進的な部分はありません。

 

大石氏 マルチチェーンやインターチェーンなどのビジョンをもつものが第3世代のブロックチェーンですが、Libraにはそれがありません。私たちが未来を感じられるブロックチェーンではありません。

 

増島氏 彼らの強みはお金があることです。金融安定など、現在の金融システムに挑戦しています。彼らの作ったホワイトペーパーを読むと、これまで5年くらいかけて議論してきたことがまったく無視されていておどろきます。当局がこれを評価しようとしても、もっているフレームワークと異なることをいっているので、評価するのが難しい。だから最初は戸惑っている状態だったと思います。これから、Libra側がいっていることを自分たちのフレームワークに照らして判断していくので、評価に時間がかかると見ています。

 

では、その評価をすると何が起きるかといえば、両者間のギャップが見えてきます。それらをどうするのか、多くの議論をしなければいけないし、お互いに相手のいっていることを聴いて、いいことをいっているなら自分たちの基準を修正するようなこともあるかもしれません。これには相当な手間がかかります。

 

金融庁1人を相手にするだけでも大変で、みんなお金が続かなくてやめてしまいます。それをグローバルでやろうとするなら、(Libra協会の参加企業が拠出した)1000億円くらいあればできるかもしれません。

 

平野氏 1000億円はロビー活動に使うということですか?

 

増島氏 当局の基準を動かしたり、コミュニケーションをしたりするためです。個人情報流出の件で数千億円の制裁金を払えるのですから、これくらいなら出せるでしょう。ホワイトペーパーでは、当局とどういうコミュニケーションをしていくかにほとんど触れられていません。コミュニケーション戦略がまったく見えないところに、当局もいらついているのかもしれません。本気でやろうとしたら、お金がかかります。

「あえて忖度しない」がフェイスブック流のハッキング手口

平野氏 当局の規制というのは、昨今はオープンに議論されてきました。それにもかかわらず、Libraはなぜ配慮や忖度(そんたく)といったことをしないのでしょうか?

 

増島氏 Libraを誰が主導しているのかを考えます。フェイスブックはもともと「プライバシーをハックする」というコンセプトをもっており、それはある意味成功したといえます。金融に対しても、同じようなアプローチや方法を考えているのかもしれません。

 

平野氏 つまり、わかっていて、あえてやっていると?

 

増島氏 わかっていて、「アンバンクト(銀行口座をもたない人々)をどう思うか?」みたいなことをいってユーザーを味方につけます。これは、社会ハッキングのやり方として一番正当でよくあるやり方です。しかし、残念ながらこのやり口は、ほとんどの支配層にばれています。私たちからすると古くて、同じやり方でハックするのは、特に金融の世界は難しいのではないかという感覚もあります。金融業界がもっているフレームワークに沿って対話するというコミュニケーション戦略のほうが、本当はよかったのではないかという感じもします。フェイスブックやLibraとしては、あえて遠いところからやろうということなのかもしれませんが。

 

平野氏 大石さん、ビットコインやアルトコインがあるなかで、Libraはどういう位置づけになるのでしょうか?

 

大石氏 やはり、法定通貨を基礎とするところで性質がまったく違います。社会ハックというように、Libraを利用して金融の在り方にチャレンジするという意味では応援しています。ただ、成功できるかどうかは疑問です。

拠出金1000億円は少なすぎる? Libraの本当のねらい

※ここで会場の聴講者から質問を受け、それに対して登壇者が回答

 

質問者 本当の意図が知りたいです。資金力がすべてだと思いますが、本気でやろうとするなら金額が二桁足りないのではないでしょうか。中央銀行を目指してのことだと思いますし、仮に金融業界に対するアンチテーゼだとしたら中途半端な額です。1000億円だと、ファンドや銀行の規模でもありません。技術も中途半端で、方向性が見えません。単に金融的なポジションを取りたいだけにしか思えません。ただのプロトタイプなのか、本当の意図は何なのでしょうか?

 

増島氏 いま、Libraとは誰かと考えたときに、法人の名前は並んでいるけれども、人の顔は見えません。人材採用で元中銀の人や政治家などを連れてきて本気で議論するようになるのであれば、たとえば中銀コインのようなものを実装する人からすると、Libraを走らせておくことのメリットはあります。この1000億円を偉い人の採用に使ってもらって、うまく交渉を進められるなら、みんなにとっていいことだと思います。この額で足りるかどうかはわかりませんが。

 

大石氏 たしかに本気でやるなら数兆円規模の資金が必要です。その意味でも言い訳というか、オープンソースコミュニティに「こういうものを作ってみました」と投げてみただけかもしれません。そのあとどうなるかは皆さんしだいですと。それが1000億円という額に現れているのではないでしょうか。

 

質問者 KYCやスケーリングの問題をクリアできたとして、今の仮想通貨や既存事業者にどういう影響を与えるのでしょうか?

 

杉井氏 フェイスブックのサービスと連携したアプリは、さまざまな人が作っています。そこにペイメントが発生すると捉えています。自由にお金を動かすことが一般化されるということで、これはイーサリアムでもできますが、それよりも高い普及率になると思ています。

 

大石氏 仮にこれが成功すると、GAFA以外も対抗してやってくるはずです。マイレージ連合のように、さまざまなコンソーシアムができるでしょう。通貨発行権の議論が進んで各所で自由に発行できるようになると、自由な通貨の競争という世界が見えてくるのでおもしろいかもしれません。

 

増島氏 出先で、ステーブルトークンを使いたいというニーズはあります。相場が安定していて、みんなが利用している通貨がブロックチェーン上で運用されている。いままで見たこともないサービスが生まれたり、投資ができたりするかもしれないので、それを見てみたいです。

会場にはBCCC会員のほか、多くのメディア関係者も集まり、立ち見が出るほどだった
会場にはBCCC会員のほか、多くのメディア関係者も集まり、立ち見が出るほどだった

イノベーションを進める議論のきっかけとして評価

平野氏 全体的にネガティブな意見が出ましたが、最後にLibraに期待することは何でしょうか?

 

大石氏 いろんな意味で議論を巻き起こしてほしいです。仮想通貨はなんだか怪しいもので、いずれ消えていくよという空気や議論があります。そういうときこそ本気で取り組まないといけません。それを認識させてくれたのは功績だと思います。

 

杉井氏 世界中の人がお財布をもつという世界がくると、それを使って夢が見られるので、私はそこを大きく評価しています。

 

増島氏 規制する側の人たちは、なるべく影響の少ないほうから少しずつ入りましょうというロードマップを描いています。それはエンドユーザーが傷つかないようにするためで、「ゆっくり慎重に」という共通認識があります。そこに「いやいや、そうじゃなくてエンドユーザーからいこうよ」という提案が出てきたわけです。

 

乱暴である反面、お金も出すし人もそろえるからといわれたら、国としてはそれに付き合う必要があります。国はイノベーションを止めてはいけないことになっているからです。

 

もしLibraをきっかけに議論が一気に進むことがあるなら、金融イノベーションを促進できるので全体にとってはいいことかもしれません。普通の企業はそういった投資はしませんし、できません。しかし、世界に4社だけ投資できる企業が存在していて、今回そのうちの1社がやろうとしています。みんなで拍手喝采をしながら応援するのもいいのではないかと思っています。

業界内外から集まるLibraへの強い関心

BCCCでは、本イベントが開催されたのちにも、7月11日にLibraに関する機関投資家向けの特別講座、さらに7月25日に今回の緊急座談会のビデオ上映会が開催された。これは、Libraや仮想通貨に対して業界内外が強い関心を抱いていることの現れといってよいだろう。

 

座談会の登壇者はLibraの将来に対して、その課題の多さからネガティブな意見を示したが、当然Libra側も当局や世間の動きを見ながら次の一手を考えているはずだ。もっとも、運用開始を予定している2020年はすぐ目の前であり、1年後に利用開始の目処が立っている状況を想像することは難しい(この短い準備期間を示したことも増島氏のいう社会ハッキングの手口なのかもしれないが)。

 

一方で、マネックスグループの松本大CEOは、Libraに高い関心を示すとともに協会への参加意向を表明。SBIホールディングスの北尾吉孝CEOもLibraからの参加打診を受けたとしており、国内企業との関係も生まれつつある。

 

発表から2か月に満たないなかで、世間でこれほど多くの反響を呼んだブロックチェーンプロジェクトは史上初めて。金融イノベーションに向けた壮大なチャレンジの一歩として今後の動向を引き続き注視していきたい。

 

 

文・構成・写真:仲里淳