エネルギービジネスとブロックチェーン #5(最終回) 適用分野の分析から見る今後の注目分野とは

前回の記事では、エネルギー分野でのICOの今後について考察した。グローバルで金融規制の強まりは不可逆的なトレンドであり、金融規制に対応した上で、投資性のあるトークンや非中央集権プロトコルのためのトークンのICOが今後の可能性だと述べた。最終回では、2019年6月現在のブロックチェーン技術のエネルギー分野での適用を総括する。

ブロックチェーンの利点を活かせるのはどのようなビジネスか

ブロックチェーン技術のエネルギー分野への適用分野の整理を試みる。良し悪しは別として、ブロックチェーン技術のエネルギー分野への適用は、多くが技術的シード起点となっているのが現状である。すなわち、解決すべき社会の課題からソリューションを考えるのではなく、いくつかの機能や特徴を備えたブロックチェーンという技術があり、その機能・特徴を活かせるようなアプリケーションの提案が行われている。

 

ブロックチェーン技術、正確には分散型台帳技術の特徴を一言で言い表すと、ネットワーク上の複数の参加者のコンピュータ同士をpeer-to-peerで接続し、決められたプロトコルに従い、取引を承認し、履歴情報を共有し続ける、ということになる。この技術の特徴を活かすアプリケーションの事例を整理してみる。

 

現存の事例を見ると、「非中央管理型の取引」という特徴が多くに使われている。これは、電力(または、電力に付随する価値や、フレキシビリティなど電力まわり)を取引対象とし、測定した電力をデジタルアセット化して取引するものと、暗号通貨を使用し、決済(金融取引)を行うもの、この両者を組み合わせたものがある。

 

このうち電力取引系にはエネルギー分野の代表的事例であるpeer-to-peer電力取引、卸売市場での取引、フレキシビリティ[1]の取引やバーチャルパワープラント(VPP)など系統管理に関するもの、需要家が卸売市場と直接取引する手段を提案している「仲介排除モデル」などがある。金融取引系には資金調達プラットフォーム、再エネ由来の暗号通貨、電気自動車(EV)の充電管理などがある。

 [1] 電力そのものを価値とするのではなく、需給の変動に応答する能力

次に、ブロックチェーン上の記録は存在の否認・改ざんが困難という特徴を利用したアプリケーション群がある。もちろん上述した取引系のアプリケーションも記録が安全に行われるのが前提であるが、本アプリケーション群は取引を行わないか、取引よりも記録保存に重点を置いている。発電した電力の情報を発電源の定性的な属性情報とともに証明する再エネトラッキング、デマンドレスポンス、EV充電、蓄電池の充放電の記録などをブロックチェーン上で行うアプリケーションなどが本アプリケーションである。

 

もちろん、ブロックチェーン上に記録した情報を基に課金・決済に使用したり、解析など別の用途に用いる。「電力取引系」「金融取引系」のアプリケーションと組み合わせて使われることもある。しかし、記録の保存がアプリケーションの中心となるため、ここでは取引系の事例とは分けて記載した。

図1 エネルギー分野のブロックチェーン技術の適用の分類(出所:著者作成・著者が参加するIEEE P2418.5エネルギー分野のブロックチェーン標準化に関するワーキンググループへの提出資料から)
図1 エネルギー分野のブロックチェーン技術の適用の分類(出所:著者作成・著者が参加するIEEE P2418.5エネルギー分野のブロックチェーン標準化に関するワーキンググループへの提出資料から)

実運用に達したのはどの分野か

それでは、上記で整理した各適用分野における進捗はどうなっているのだろうか? 分かりやすくするために、エネルギー分野のブロックチェーンの応用事例を次の3つに分け、公開情報を基に調査した上で図2に整理した。

  • 計画段階:案件が発表されているが、まだ計画段階であり、プロダクトの開発や実証実験の計画・実施が確認できない
  • 開発・実証段階:プロダクト(プロトタイプ含む)・PoC(Proof of Concept)の構築や実証実験の実施が行われた、または着手したことが確認できる
  • 実用段階:「実用」または「商用」を宣言している、またはPoC・実証実験を超えて実運用の域に入ったと判断できる

 

図2 段階別に分けたエネルギー分野のブロックチェーンの応用事例(出所:著者作成・著者が参加するIEEE P2418.5エネルギー分野のブロックチェーン標準化に関するワーキンググループへの提出資料から)
図2 段階別に分けたエネルギー分野のブロックチェーンの応用事例(出所:著者作成・著者が参加するIEEE P2418.5エネルギー分野のブロックチェーン標準化に関するワーキンググループへの提出資料から)

図2を見ると、多くの案件が開発・実証段階であることが分かる。また、開発・実証段階のものより数は少ないが実用段階に達したものも現れている。実用段階に達した案件は、次のような特徴があると考える。

  1. 既存システムや業務プロセスの大幅な変更や高度な連携がなく、単独で運用できるものが多い。例えば、peer-to-peer電力取引を実用化しようとすると既存の電力システムとの高度な連携が必要となるが、マイクログリッド[2]であれば単独でも運用しやすい
  2. 規制に抵触したり、制度的な調整を要しないものが多い。例えば、楽天は環境価値の取引市場であるREts(Rakuten Energy Trading System)を創設したが、今まで相対で行われた流通形態を変えるだけであり、環境価値の制度に触れるところはない
  3. ステークホルダーは比較的少ない。金融業界のように金融機関が何十行も参加して共通基盤やアプリケーションを開発するプロジェクトはない。例えば、みんな電力は再エネトラッキングのシステムを商用化させたが、これは基本的に自社のシステムであり、発電所や顧客は関係するが業界全体の標準に関わるものではないし、業界横断的なシステム連携もない

[2] 電源、負荷、その他機器からなる独自のネットワーク。従来の系統に接続するか独立して運用される。

ブロックチェーンを適用することでコスト削減など大きなメリットが生まれるのではなく、ブロックチェーンの導入に合わせて業務を変えることで大きなメリットを享受できるという意見は以前からある[3]。さらに、情報共有を行う複数のステークホルダー間でブロックチェーンを活用するように業務を変えることでブロックチェーンの価値を発揮できるという見解もある[4]。数年程度で実用段階に入った上記の事例はまだ単独の組織で完結し、大幅な業務改善を伴わないアプリケーションが多く、大きな果実を収穫する機会はまだ残されているのではないだろうか。

[3] 例えば「ブロックチェーンでコスト削減、必要なのは「業務をシンプルにすること」 (2/2) 」(ITmedia NEWS)
[4] 例えば「POCでビジネスを再考する」(Corda japan – Medium)

今後の注目プロジェクトはマルチステークホルダー型

2017年から2018年にかけてはエネルギー分野でブロックチェーンに取り組むスタートアップ企業、特に電力取引プラットフォームを手がける企業が雨後のタケノコのように増えた。この動きは一段落したように見える。

 

それでは今後注目の動きとは何か。1つは、複数のステークホルダー間でブロックチェーンを活用し、参加組織がメリットを享受するような動きだ。ドイツのPonton社が主導するThe Enerchain Projectは約40組織から成るコンソーシアムを組成し、取引プラットフォーム、系統運用、卸売市場での取引などを革新しようとする試みである。

 

同様に、英国のElectron社も約10社のコンソーシアムを組成し、フレキシビリティ取引プラットフォームの開発を行っている。これは、従来2社の相対取引であったところを複数のステークホルダー間の取引にするという業務の変更を伴うようである。

 

ブロックチェーンの真価を発揮するアプリケーションが複数のステークホルダー間の情報共有を伴うものであれば、上記の2つは有望ではないか。複数の組織が関与し、業務プロセスの変更を伴うためハードルは高いが、得られる成果もその分大きいだろう。今後は、業界全体を革新し得る取り組みの成果を見るのが楽しみである。

Profile

解説:大串 康彦(おおぐし やすひこ)
プラントエンジニア、電力会社勤務を経て、米国企業でブロックチェーンのエネルギー分野での事業開発に取り組んでいる。