2019年の有望ブロックチェーンプロジェクトは? ― 3人の専門家がサービス内容と資金調達状況から評価

2019年の有望ブロックチェーンプロジェクトは? ― 3人の専門家がサービス内容と資金調達状況から評価

いま注目すべきブロックチェーンプロジェクトは何か。シリコンバレー在住のコンサルタントとして経験豊富な渡辺千賀氏、イーサリアム開発者の西村祥一氏、ウェブブラウザー開発者の近藤秀和氏の3人が、サービスの内容や資金調達の状況をもとにピックアップした10プロジェクトを紹介する。

本稿では、6月12日にブロックチェーン開発企業のICOVO AG主催で行われたイベント「Ethereum Hack Tokyo #15」内のスペシャルトークセッション「注目プロジェクトの最新事例について語る~米国ブロックチェーン業界の最近の動向」の内容
をもとにまとめる。

(左から)西村祥一氏、渡辺千賀氏、近藤秀和氏
(左から)西村祥一氏、渡辺千賀氏、近藤秀和氏

「米国ではもうICOによる資金調達はありえない。コイン(トークン)による調達も無くはないが、投資するのはプロだけ」(渡辺氏)という状況のブロックチェーン市場だが、依然として新たなプロジェクトが生まれ続けており、その中には輝きを秘めた有望プロジェクトもある。

 

渡辺氏は、自身も参加するブロックチェーンの開発やリサーチを行うG.U.Labsのメンバーである近藤秀和氏や西村祥一氏とともに登壇し、サービス内容や資金調達の観点からプロジェクトやスタートアップの有望性を評価し、その紹介・解説を行った(登壇者の詳細なプロフィールは記事末に掲載)。

(左から)西村祥一氏、渡辺千賀氏、近藤秀和氏
(左から)G.U.Labsの代表取締役を務める西村祥一氏、渡辺千賀氏、近藤秀和氏

[01]Chainalysis ― ブロックチェーン上の取引分析

Chainalysis
https://www.chainalysis.com/
調達額:3,000万ドル

 

ウォレットをたどって、誰がいつどのような取引を行ったのかを調査するサービス。マウントゴックス事件のときに、どこにビットコインが行ってしまったかを調査した人たちによって創業された。流出事件などが起こると、このサービスが活躍する。

[02]ThunderCore ― 高速トランザクション技術

ThunderCore
https://www.thundercore.com/
調達額:5,000万ドル

 

1秒間に3000トランザクションの処理が可能なイーサリアムからフォークした高速チェーン。高速トランザクション技術系は、非常に数が多く食傷気味の感もあり。

[03]LedgerX ― 米国認定済みビットコイン(BTC)オプション取引所

LedgerX
https://www.ledgerx.com/
調達額:2,500万ドル

 

米国で実業として動いているのが、お金の取引系。米国では、ビットコインのオプション取引はこれまで違法とされていたが、LedgerXは正式な免許を取得してビジネスに。ちなみに、ハードウェアウォレットのLedgerとは別ものなのでご注意。

[04]Tagomi ― 大規模取引を細分化する暗号通貨取引

Tagomi
https://www.tagomi.com/
調達額:1,200万ドル

 

ゴールドマンサックスで電子取引のヘッドをやっていた人物が共同創業者&CTO。暗号通貨では、ある一定規模以上の取引をするとその影響で相場が崩れてしまう「リクイディティ」(市場流動性)の低さが課題。それに対してTagomiは、たとえば1億円のビットコインを買おうとした際に、だいたい30セントから1ドルくらいの少額取引に分割したうえで、少しずつ一定期間買いを入れるというもの。

[05]Numerai ― ヘッジファンド用アルゴリズム市場

Numerai
https://numer.ai/
調達額:1,200万ドル

 

ICOはせず地道に活動している正統派のプロジェクト。株を投資対象とするヘッジファンド用の予測アルゴリムズを一般から募集。すぐれたアルゴリズムの応募者に対する報酬をビットコインで支払っていた経緯から暗号通貨・ブロックチェーン業界に参入してきた。

 

最近は、Numeraiの独自コインも提供。アルゴリズムを応募する際に、自信がある人はNumeraiコインを賭けることで、より高額の報酬を得ることができる。単にアルゴリズムを募集するだけでは質の低い応募も大量に集まってしまうが、この仕組みを設けることで、質の高い応募者とアルゴリズムを集められるという効果がある。

[06]Celo ― ステーブルコイン+DEX+ガバナンス付き携帯ウォレット

Celo
https://celo.org
調達額:3,000万ドル

 

「celo(ツェロ)」は「目的」(purpose)を意味するエスペラント語。スマホ向けのウォレットで、スーパーなどで買い物ができるほか、アルゼンチンでは実証実験が行われている。独自のステーブルコインを発行している。コインベースなどからも出資を受けている。

 

2018年はステーブルコインが数多く登場し、「イヤー・オブ・ステーブルコイン」といわれたほど。現在あるステーブルコインのほとんどは米ドルにペッグ(為替レートを一定割合で保つこと)しているが、他にも価格を安定にするためのさまざまな方式のコインがある。

 

一般的な経済では、何かにペッグしたコインは必ず崩壊するといわれている。「暗号通貨であれば崩壊しないようにできるのかか?」と懐疑的な経済学者は多いが、みんな果敢に挑戦しており、5千億円程度が市場で動いているといわれている。

 

暗号通貨は下落相場のときは一斉に落ちることが多いので、避難の手段としてけっこう使われている。また、世界最大の金融機関であるJPモルガンが、金融機関向けの決済手段としてJPモルガンコインを提供するといった動きもある。

[07]HealthVerity ― ヘルスケアデータ用ブロックチェーン

HealthVerity
https://healthverity.com/
調達額:1,100万ドル

 

血液検査の結果や飲んでいる薬、手術履歴といった医療健康データをブロックチェーン上で管理。病院向けに管理・提供するだけではなく、匿名化したうえでマーケティングデータとして販売する。たとえば製薬会社であれば、自社の薬品を使っている患者はどのような属性をもっているのか、他にどんな薬を服用しているのかを分析できる。

[08]O(1) Labs ― Snarky+CODA

O(1) Labs(オーワンラボ)
https://o1labs.org/
調達額:1,500万ドル

 

仮想通貨「Zcash(ZEC)」でも使われている、トランザクションの中身を見せずに中身が正しいことを証明する「ゼロ知識証明」(zero-knowledge proof)という手法を用いた技術やブロックチェーンデータの圧縮技術「CODA」を開発。CODAを使うと、ブロックチェーンを圧縮してフルノードをスマホに保存できるサイズにまで小さくできる。

[09]Flexa ― 全米3万店舗以上で利用できるモバイルウォレット

Flexa
https://flexa.network/
調達額:1,400万ドル

 

大型百貨店のノードストロームやスーパーのホールフーズ・マーケットなど3万店舗以上で利用できるモバイルウォレット「SPDEN」を提供。店舗への導入に力を入れており、ウィンクルボス兄弟がやっているステーブルトークン「Gemini dollar(GUSD)」に対応している。ビットコインのようなボラタリティの高いコインよりもステーブルコインのほうがよいとして支持を集めている。

[10]Blockstack ― DApps開発ツール&ショーケース

Blockstack
https://blockstack.org/
調達額:1,300万ドル

 

DApps開発ツールとショーケースのようなウェブベースのインターフェイスをもつサービス。アプリウォレットとは違い、Blockstack自身はカストディ的にユーザーの秘密鍵をサービス上で預かり、そのうえでブロックチェーン上のアプリを使えるようにするというもの。実際に使ってみると、「非中央集権的なDAppsなのか?」と疑問に思う点もある。将来的には分散ストレージとの連携によって、データを分散的に保存できるようになりそうな気配もある。

まだまだ技術革新が求められる分野なのでチャンスあり

ひと頃のブームは去ったといわれているブロックチェーン業界だが、これまで紹介してきたように有望で真面目なプロジェクトは次々と生まれ続けている。ただし、これもよくいわれるように、技術的な成熟度はインターネットの初期段階に似た様子で、足りていない技術パーツも多い。

 

たとえば、ネットスケープ創業者であるマーク・アンドリーセン氏のベンチャーキャピタルとして知られるアンドリーセンホロウィッツ(a16z)のクリプトファンドパートナーであるアリ・ヤヒーラ(Ali Yahya)氏は、「ブロックチェーンの有望な分野、技術革新が求められる分野」として次の5つを挙げたという。

  • 分散コンピューティングのスケーリング
  • 分散ストレージのスケーリング
  • 分散ネットワークのスケーリング
  • 信頼できるID(認証)と評価の確立
  • 信頼できるガバナンスモデルの確立

最後に渡辺氏、西村氏、近藤氏の3人は、「ここに挙げられた課題を1つか2つ組み合わせたプロジェクトを立ち上げれば、お金がついて、日本発のすごいプロジェクトが生まれる可能性がある。エンジニアの方はいまから参入すれば、インターネットの初期の頃のような興奮を体験できるかもしれない」として、エンジニアにブロックチェーン業界への挑戦を呼びかけた。

 

 

構成・写真:仲里淳

 

Profile

G.U.Labs株式会社
ブロックチェーンが引き起こすさまざまな社会変革に対応するためのツールソリューションと知識、および研究開発力を提供。

 

渡辺 千賀(わたなべ ちか)
スタンフォード大学MBA/東京大学工学部卒。シリコンバレーで日米事業開発のコンサルティングに長年従事。テクノロジー領域での最先端のイノベーションにフォーカスし、投資と共同事業開発を組み合わせた日米企業アライアンスに強みを持つ。三菱商事、マッキンゼーを経て、現MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏のもと、アーリーステージベンチャーの投資・育成に従事したのち渡米しBlueshift Gobal Partnersを創業。G.U.Labsの創業メンバーでもある。2013年から暗号通貨に興味を持ち、欧米の業界動向をフォロー。

 

西村 祥一(にしむら よしかず)
日本オラクルにてDBコンサルティングに従事。その後、株式会社コンプス情報技術研究社を立ち上げ、自然言語処理・機械学習などの学術系案件の開発・コンサルティングを行う傍ら、ブロックチェーン技術研究に特化したG.U.Labs株式会社を分離し、モバイル向けウォレットTachyon WalletやEthereum開発エコシステムへのツール開発・提供を精力的に行っている。Global Blockchain Summit 2016ではブロックチェーン技術による位置情報プラットフォームを提案し、Best Innovation Awardを受賞。著書に「はじめてのブロックチェーンアプリケーション~Ethereumによるスマートコントラクト開発入門」(2017年、翔泳社)がある。2018年3月、山瀬明宏、熊田昌彦とスイスのツークにICO支援サービスを提供するICOVOを設立しCTO(最高技術責任者)に就任。

 

近藤 秀和(こんどう ひでかず)
Lunascape株式会社代表取締役。早稲田大学大学院博士課程修了。ソニー株式会社を経てLunascape株式会社を設立、代表に就任。02年、情報処理学会「Best Author賞」受賞。04年、情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定。05年、経済産業省よりソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー受賞。2007年、Microsoft Innvation Award受賞。2008年、Business Week誌から「Asia’s Best Young Entrepreneurs」に選出。11年にはAERA誌により「日本を立て直す100人」に選出。工学博士。