Libraは何をもたらすのか? その可能性と規制のゆくえから考えるお金の理想と現実[FIN/SUM 2019討論]

Libraは何をもたらすのか? その可能性と規制のゆくえから考えるお金の理想と現実[FIN/SUM 2019討論]

日本経済新聞社と金融庁が主催する国際イベント「FIN/SUM 2019」が、9月3日から6日まで東京都内で開催された。フィンテックや規制管理に技術を活用するレグテック(RegTech)について、世界中から集まった専門家たちが議論が繰り広げた。フェイスブックを中心に進められている仮想通貨「Libra(リブラ)」は、数あるテーマの中でも注目度が高く、多くのセッションで取り上げられた。
本稿では、初日となる9月3日に行われた「お金はどうあるべきか FBリブラの衝撃 Part2(国内編)」の模様をお届けする。

Libraに対する印象と是非は各者各様

今回のFIN/SUMで重要トピックの1つに挙げられたLibraに関しては、「お金はどうあるべきか FBリブラの衝撃」と題して海外ゲスト中心の「パート1海外編」、国内ゲスト中心の「パート2国内編」として、2つのセッションが行われた。

 

パート2国内編に登壇したのは、ドレミング株式会 社会長の高崎義一氏、株式会社ロフトワーク 代表取締役の林千晶氏、株式会社LayerX CTOの榎本悠介氏、上智大学 教授の森下哲朗氏の4人。モデレーターを務めた日本経済新聞社 編集局コメンテーターの上杉素直氏は、まずLibra発表時の第一印象についてたずねた。

(左から)上杉素直氏、高崎義一氏、林千晶氏、榎本悠介氏、森下哲朗氏

ドレミングで銀行口座をもたない人向けの給与支払いサービスを提供する高崎氏は、Libraを好意的に受け止めており、普及してほしいと願う。背景には、飲食店を経営していたときに阪神・淡路大震災に遭い、銀行が止まって店に売上金を保管していたら3回も盗難にあった経験がある。

 

「3回目のときは冷凍庫に隠していたお金がなくなってしまった。内部犯行だと思ったら嫌で嫌で、こんな仕事をしたくないとさえ思った。そのときから現金ではないほうがいいと考えるようになった。クレジットカードもあるが、手数料の高さがハードルになっている。Libraが世界中に広がってくれたらとても嬉しい」(高崎氏)

 

林氏は、花王で化粧品を担当したのち、米国留学を経て共同通信社で記者として働き、2000年にロフトワークを起業。「デザイン思考」を掲げ、生活者視点でさまざまな企業と協業しながら製品やサービスづくりにかかわってきた。そんな林氏は、Libraに対して特別な印象はなかったという。

 

「Libraという名前ではあるが、また新しいビットコインのようなものが出てきたのかとニュースを読み飛ばしていた。金融業界の人にとっては衝撃なのかもしれないが、おそらく8割くらいの人にとってはどうでもいい動きだと思う」(林氏)

 

そんな林氏とは対照的に、強い興味を抱いているのがブロックチェーンスタートアップのLayerXでCTOを努める榎本氏だ。

 

「私は逆に衝撃を受けた。夜にLibraの発表を知り、そのまま朝まで調べ続け、実際にLibraのコードを動かしてみた。決済に使える仮想通貨には、これまで決定打といえるものがなかったが、Libraを見てついに来たと感じた。フェイスブックはテックカンパニーとして尊敬しているし、組成が難しいとされるコンソーシアムチェーンでこれだけの企業を22社も集められたこともすごい」(榎本氏)

 

銀行勤務を経て大学で国際取引法や金融・ビジネス関連を教えている森下氏は、信頼の観点からLibraは既存の仮想通貨とは異なるかもしれないと語る。

 

「これまでの仮想通貨は、通貨として信頼に値するようなものではなかった。しかし、これほどのプレイヤーたちがコンソーシアムを組んで作り上げるものなら、もしかするとみんなが信頼するかもしれない。一方で法律的問題も出るだろうし、規制当局や実務に携わる人は非常に難しい問題を抱えることになるだろう」(森下氏)

ブロックチェーンが可能にする金融包摂と「お金のソフトウェア化」

Libraが世間から注目を集めるのは、巨大なユーザーベースをもつフェイスブックが運営の中心にいて、強い影響力をもつとされるからだ。しかし技術的観点では、ブロックチェーンを採用したことで起こり得るイノベーション、すなわち非中央集権的な金融システムの到来こそが本質だろう。そしてこの先、仮にLibraが成功しなかったとしても、第二、第三のLibra的な構想が現れることは容易に想像できる。Libraと、それに続くであろうブロックチェーンの金融イノベーションにはどのような可能性があるのだろうか。

高崎義一氏 ドレミング株式会社 会長

この問いに最初に答えたのは高崎氏。ドレミングの前身となる会社のころから個人を助けるための給与支払システムを開発してきた高崎氏は、ある意味Libraよりも先に金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)を実現すべく奔走してきたといえる。特にその必要性を強く意識するようになったのは、2014年にケニアで「エムペサ」(M-PESA:ケニアで普及しているモバイル送金サービス)を目の当たりにしてからだった。

 

「2014年のはじめに、ケニアにエムペサを見に行った。きっかけは、当社の給与支払システムを利用しているベトナムの工場で、従業員が銀行口座をもっていないために給料を大量の札束で手渡ししていることを知ったから。調べてみると、世界には銀行口座をもたない人が20億人以上もいるという。

 

そんな中、金融機関がないところで送金サービスをやってるエムペサを知り、実際に目の当たりにしたら衝撃を受けた。しかし、エムペサは現金をバイクで輸送してバラック小屋で保管している。これでは危ないだろうと思い、当社の給与支払システムから直接エムペサにチャージできるようにしたら、欧州や中東をはじめ世界各国から関心を寄せられた。

 

Libraの発表を見たとき、自分たちも同じようなことを考えていたが、やはりGAFAは強いなと思った。ただ、私たちの目的はあくまでも貧しい人たちが真面目に働くと毎日給料がもらえて買い物ができるサービスを提供すること。その後押しになるかもしれないLibraは大歓迎だ」(高崎氏)

 

欧米には馴染みがあるものの、アジアは詳しいわけではないという林氏は、仕事で訪れたミャンマーでの体験を思い出したという。都市部から数時間かけて陸路と水路を乗り継いでやっとたどり着いた辺地。そこに暮らす人々がもっとも欲するものはケータイだった。

 

「ケータイがすべてのアクセスのポイントになっている。日本ではキャッシュレス化が進められているが、それはもう世界共通で当然のこと。便利だと感じた瞬間に人は使うようになるので、それをLibraが仕込んでいけるかが問題になる。ただし、サービスとしては可能であっても、さまざまな規制とのせめぎ合いで最終的にどうなるかはわからない」(林氏)

林千晶氏 株式会社ロフトワーク 代表取締役

榎本氏は、金融イノベーションを「お金のソフトウェア化」という技術者らしい視点でとらえる。

 

「お金がソフトウェア化されたらどうなるのか。みんなが使うようになり、キャッシュレス化が進んだその先を考えるのがおもしろい。コンビニで待たずに会計ができるというのはまだ一歩目に過ぎない。

 

たとえば、お金がプログラムできるようになれば、毎月の会計処理がなくなるかもしれない。すべてがデータ化されていて支払先と目的などが記録済みなら、毎月締めるという必要性がなくなる。税金もリアルタイムで徴収されて留保がなくなれば、効率化されてお金の回りも良くなる。

 

今は証券をブロックチェーンに乗せて管理することに興味がある。透明性が担保されて不正がなくなり、移管も簡単になり、未上場株だから50人までしかもてないといったこともプログラムで制限できるようになる。そのときに重要なことは、お金そのものがプログラムになっていること。配当記録もお金もすべてがスマートコントラクトで一気に移転処理されなければ意味がない。1回のトランザクションで処理されることが本質であり、そのためにはプログラマブルマネーというものが不可欠だ。Libraはその1つになり得るもので、おそらく小売決済から始まるだろうが、どこまで広がるか注目している。

 

規制やさまざまな圧力があったとしても、結局は広がる。なぜなら便利だからだ。時代的にはすべてのものがソフトウェア化されつつある。最初はメディア、そして小売、最近はモノもIoTでソフトウェア化されている。そんな中で、お金だけがソフトウェア化されない理由はない。いつ実現されるかはわからないが、それに賭けてみたい」(榎本氏)

 

森下氏も、榎本氏の発言に同調する形で社会変革のきっかけとしてとらえる。

 

「従来の決済システムとサービスなどの物流システムは別れていたが、それが一体化していく。これまでは有望な決済手段というものはなかった。しかし、フェイスブックのような便利なユーザーインターフェイスと、データ活用に積極的な企業がLibraの運営メンバーに入っているのを見ると、サービスや物流と決済が本当に融合した世界が来るかもしれないと感じる。そうなると、発展途上国とは違って銀行口座をもたない人が少ない日本でも、これまで経験していない便利さを提供できるのではないか」(森下氏)

規制当局の警戒姿勢をどうとらえるか

Libraは大きな可能性を秘めている一方で、現実にはネガティブな見方が強い。革新的であればあるほど、実社会に混乱を招くおそれがあるからだ。実際、7月にフランス行われたG7財務大臣・中央銀行総裁会議では、マネーロンダリングの懸念や個人情報保護の観点から、最高レベルの規制が必要だという意見も出ている。この点についてはどう考えるべきか。

 

森下氏は、国の立場からすると自然な反応であり、国民の多くもリスク承知で大きな変化を望むわけではないとする。

森下哲朗氏 上智大学法科大学院 法科大学院長・教授

「規制当局の反応は、健全で当然の反応だ。成功するか失敗するかわからないが、ある一定のインパクトを与えるものが出てきたとき、現在の金融や法律で大事とされていることが害される可能性があるなら、それを避けようとするのは当然だろう。Libraが謳うグローバルで即時かつ低コストで資金移動できるというメリットは、マネーロンダリングなどに悪用される可能性も十分ある。

 

また、個人情報も非常に重要な問題だが、ホワイトペーパーを見ているだけではまだよくわからない。したがって、しっかりとスクリーニングをしていかないと安心できないし、十分注意するという姿勢は国民の生活に責任を負う国家として当然のことだ。

 

ネットの世界では、グローバルにつながっているのだから、自分で選択してその世界に飛び込み、世界の人たちとコンタクトをとることが前提という空気がある。Libraのホワイトペーパーでも、コントロールする権利を個人がもつことが大事とある。他方で、何かあったときには国に守ってほしい、国の規制によってよからぬ事態をなるべく減らしてほしいと願う人もいる。

 

このバランスをどうとるかは難しい問題だ。すべて自己責任だとみんなが考えれば、個人を守るための規制は不要なのかもしれない。しかし、おそらく私たちの社会はまだそこまで達していないし、特に日本は政府に期待する人が多いだろう。国のほうから気にすべき点をリストアップして、それらがクリアされない限りは勝手に進めてもらっては困るとする姿勢は妥当だ」(森下氏)

 

これに対して榎本氏は、Libraに向けられるいくつかの懸念すなわちAMLやKYCへの対応は考慮されているとし、具体策を3つ挙げた。

 

1つ目は、Libra協会を構成するコンソーシアムが認可制で各企業が責任を負っていること。2つ目はプログラマブルなお金であるゆえに、譲渡制限や用途把握が可能であること。「国外にもち出せないように設定することもできる」と例を挙げ、「これまでの既成概念で考えるべきではないとする。3つ目は、トレースが可能であること。すべてがブロックチェーン上に記録されていることで、現金よりもはるかに追跡しやすい。完全に特定できないまでも、やりとりされた記録の分析によって疑わしい取引は把握できるはずだという。

 

「世界中で莫大なコストをかけてAMLに取り組んでいるが、実は全体の1%しか追えていないとされ、非常に効率が悪い。世界的な金融包摂の阻害要因をテクノロジーで解決できるなら、おもしろい世界だろう」(榎本氏)

榎本悠介氏 株式会社LayerX CTO

この榎本氏の見方に対して、「20年前の自分を見ているようだ」と語った林氏は、林氏は逆に悲観的だ。

 

「インターネットが登場したとき、もうマスメディアに頼らず自分で発信できると自由を感じた。しかし20年経ったいま、新しい世界が開けるというのは幻想で、インターネットも結局は既存のマスメディアを誇張するツールに過ぎないという現実を知った。

 

同じように、Libraにせよ仮想通貨にせよ、前向きに考えれば労働賃金や税金が自動的に処理されて便利になり、働き方が変わるような世界があるかもしれない。しかし、先日の仮想通貨流出事件の際にブロックチェーンだから大丈夫だよねと思っていたら、すぐに裏の世界へと流れて回収できなくなるという現実があった。同じブロックチェーンでも、直接お金にかかわらない部分は比較的前向きに受け入れられる。しかし、お金にはダークな力が働きやすい。何十億円、何百億円をワンクリックで動かせると聞くと、人々は恐怖を感じるのではないか。

 

実際のところ、Libraはかなり規制されるだろう。そうなると本来の便利さが消され、逆に不便な部分が目立ってしまい、日本ではそれほど使われないのではないか」(林氏)

 

高崎氏は、自身が目指す世界を後押しする存在として、規制する側が変わる必要があるのではないかと考える。さらに世界に視野を広げたとき、日本が貢献できること、やるべきことがあると訴える。

 

「私は1957年に熊本県の上益城郡という場所で生まれた。隣は公害で有名な水俣。子どものころから水俣病になるんじゃないかと、報道を見るのが嫌だった。ケニアやインドに行ったら、街はゴミだらけでスモッグも多い。日本か過去に経験し、苦労してきたことを繰り返しているのかと思ったら、それを解決する日本の技術を提供したいと思った」(高崎氏)

 

そこで高崎氏が目を付けたのが徴税だ。インドやアフリカ諸国では、所得が低いために税金を払っていない人の数が非常に多いという。これは脱税というよりも、徴収する税額があまりにも低すぎて、処理コストのほうがかかってしまうからだ。

 

「現金払いを前提とした古い法律では、金持ちだけから徴収すればいいと考えていたのかもしれない。しかしデジタルのお金なら、ケータイで給料を振り込める。その際に、たとえば給料から5%をいったん国が預かり、1年後に収入が一定額に満たなければ金利を付けて返すという仕組みにすれば、平均月給2万円のインドなら7兆円以上の予算ができる。ルワンダなら600億円。これを下水道や電力といったインフラに投資できれば、雇用が生まれて失業率が改善できる」(高崎氏)

 

高崎氏がいわんとするのは、現金を前提とすることで税金徴収が限定的になってしまい、国民に還元されるはずの公的予算や市場創出の機会が失われているのではないかということ。そしてまた、日本にとってもビジネス機会を見逃してしまうことになると語る。

 

「日本には提供できるノウハウや技術がある。デジタル化は日本より進んでいるから、ロイヤリティや売上は発生した瞬間にデジタルマネーで回収できる。

 

たとえば現地の資産家に工場を作ってもらい、日本が技術を提供して売上の一部をロイヤリティとして得る契約にしたら、アフリカ、インド、中東、アジアはものすごく巨大な市場だから大きなチャンスがある。それをただ指をくわえて見ているだけでいいのか」(高崎氏)

 

高崎氏が考えているのは、決して労働者から搾取しようというものではない。少なくとも、ドレミングのシステムは労働者からは手数料を取らず、雇用主である企業や金融機関と組んで進めるものだ。そして、国民の多くが銀行口座をもっていない中で実現するための鍵となるのが、ケータイとデジタルマネーというわけだ。Libraである必然性はないものの、広く普及して皆が使えるものとして有望な候補であり、だからこそ普及を望むという。

日本では予想がつかないLibra普及の可能性

榎本氏や高崎氏が語ったように、Libraは社会をよりよいものへと改善し、ビジネスを広げる期待がある一方で、これまでにない懸念や心配もある。最後に上杉氏は、Libraが構想する世界の実現可能性、そのための条件や課題はどのようなものが考えられるかと聞いた。

 

森下氏は、是非を論じるだけでなく、Libraのいい面を参考にわれわれ自身も理想的な形を模索するきっかけにすべきだと語る。

 

「正直、Libraが何をどれくらいのレベルで成そうとしているのかはよくわからない。しかし、われわれはLibraの動向をただ眺めるだけでなく、Libraがやろうとしていることでいいと思えるものがあるなら、別の形や方法で実現できないかと考えるきっかけにすべきではないか」(森下氏)

 

榎本氏は、規制によってどういう結果になるかはともかく、オープンソースプロジェクトとして見たLibraは、すでに大きな成功を収めていると高く評価する。

 

「Libraが成功するかはわからない。しかし、実現しようとしている世界は10年も経たずに来ると思っている。Libraに対する批判は多いが、ユーザーとしては結構イケていると思っている。

 

たとえば、一企業によるポイント発行は、倒産したらどうするのかという議論がある。それに対してLibraは、大手企業によるコンソーシアム(Libra協会)という形で答えている。技術的にも個々の技術を適切に選択していて、非常に真摯に取り組んでると思う。また、オープンソースソフトウェアのプロジェクトとしては、GitHubのスター数を見ると世界中のエンジニアから注目されていることがわかる。

 

これだけ短期間のうちに、しかも製品リリース前にもかかわらずこれだけのレベルに達したというのは、すでに成功したといえる」(榎本氏)

 

林氏はやはり日本での普及には否定的で、代わりに中国でのクローンプロジェクト登場やアジアでの浸透を予想。それでも、将来的には金融の在り方に変化は訪れるとする。

 

「Libraはうまくいかないと思っている。それよりも先に、Libraのソースコードやスキームを参考にした中国発のプロジェクトが出てくるのではないか。やはり、すでに金融システムが整備されている国と、現状で銀行もなくてどうするのかといっている国では、欲求の度合いがまったく異なる。中国やアジアの爆発的な成長力を考えると、あちらのほうが速く進むだろうと思う。

 

一方で、19年前に創業したロフトワークは、クリエイティブで日本を豊かにすると掲げていたがなかなか理解されなかった。しかし今では、デザイン思考やクリエイティブが世の中で広く受け入れられるようになった。10年、20年経てば望むものが確実に手に入る。その意味では、Libraではないかもしれないが、現在の銀行を超えたより便利な金融機関というものが出てくるだろう」(林氏)

 

高崎氏は、自身の源体験からとにかくキャッシュレス化やお金のデジタル化を願い、Libraに期待を寄せる。それは、高齢者社会に直面し、災害が頻発する日本という国としても、進めるべきものでもあるとする。

 

「4月にサウジアラビアで世界中のメガバンクのトップが集まるイベントがあり、参加してきた。サウジアラビアでは、GDPの1.3%が紙幣のコストにかかっているという。紙代、印刷代、現金輸送や金庫の警備費、偽札検知器、紙幣カウント器などのコストだ。これらのコストを削減するために、2030年までに70%以上のキャッシュレス化を目指している。この影響でUAEなどでもキャッシュレス化の研究と実証実験が始まっている。盗難や賄賂など、どう考えても紙幣にはマイナス点が多い。

 

阪神・淡路大震災のとき、3日後に家に帰たら金目のものがすべて無くなっていた。関東大震災のときは永田町が焼け野原になってすべて燃えた。東北では津波で流された。現金だと証拠がないので返って来ない。いま自宅にお金を置いている人は、災害で火事や津波に遭ったら生活保護者になってしまう。こんな災害の多い国で一番安全なのは、ケータイの中に入れておくことだ。モバイルマネーという意味ではLibraにぜひ普及してほしい」(高崎氏)

 

◇ ◇ ◇

 

上杉氏は最後に「お金の可能性はあるし、お金はやはり意味が深いということを気づかせてくれる討論になった。これからわれわれの知恵や独創力が試されるのではないかと感じた」と討論を締めくくった。

 

Libraがどのような形で始まり、広がるのか。まだ不透明な状況で、答えを出すことは難しい。フィンテックの領域には、Libraやブロックチェーン以外にも多くの検討事項があり、まさにFIN/SUM全体をとおしてそれらが議論された。しかし、森下氏が「われわれ自身も考えるきっかけにすべき」と語ったように、Libraがこれからの記入を考えるうえで重要な論点を突きつけたことはたしかだろう。

 

 

文・写真:仲里淳