銀行は仮想通貨Libraにどう備えるべきか? 日本経済への影響や逆風の背景を識者討論から読み解く

銀行は仮想通貨Libraにどう備えるべきか? 日本経済への影響や逆風の背景を識者討論から読み解く

6月18日の発表から半年、仮想通貨Libra(リブラ)は依然としてブロックチェーン業界を騒がせている。乱立する仮想通貨市場にあっていよいよ本命の登場だと歓迎する者、フェイスブックが中心にいることを不安視する者、金融政策が破壊されるのではないかと懸念を示す各国の規制当局など、受け止め方はさまざまだ。コンソーシアムから数社が離脱するなど、Libra協会自体も決して順調とはいいがたい。果たしてLibraはどこへ向かうのか、10月24日に開催されたイベント「ブロックチェーン羅針盤」内での業界識者によるパネルディスカッションから展望する。

 

カンファレンスイベント「ブロックチェーン羅針盤」は、一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)主催により10月24日と25日に開催された。「FIT2019(金融国際情報技術展)」(主催:日本金融通信社)と併催だったこともあり、「銀行や金融機関の将来」という観点からブロックチェーンやLibraに高い関心をもつ聴講者も多くいた。

 

「仮想通貨Libraの衝撃」と題して行われたパネルディスカッションでは、BCCC代表理事の平野洋一郎氏がモデレータを努め、BCCC副代表理事の杉井靖典氏、株式会社グラコネの藤本真衣氏、株式会社LayerXの福島良典氏がパネリストとして登壇した。平野氏と杉井氏は、7月1日に開催された「Libra緊急座談会」に続く登壇となる。

銀行がLibraに対して考えるべきこと

平野洋一郎氏 今日の来場者には銀行をはじめ金融関係者も多いようです。そこで、銀行関係者はリブラをどう捉え、どう考えるべきでしょうか。

 

杉井靖典氏 銀行自ら預金を裏付けにした仮想通貨を発行して「リブラのようなもの」になるとよいのではないでしょうか。異なる銀行どうしでも信用があれば交換できるので、必ずしもコンソーシアムである必要はありません。一番の価値はプログラマブルであること。商取引が行われたときに代金として利用できること。スマートコントラクト上を移動できる通貨のほうが、将来にわたって現金よりも高い利便性を提供できます。

 

福島良典氏 Libraは普及するのかと金融関係者からよく聞かれます。Libraそのものについては正直わかりません。ただし「Libra的なもの」は、この先10年というタイムスパンで見れば必ず普及します。これは間違いない。金融機関の在り方も大きく変わるでしょう。

 

Libraの発表以降、中国は人民元のデジタル化を発表するなど、これまでは紙幣やそれをただデジタル化しただけのお金が、真にデジタルになろうとしています。

 

わかりやすい話では、Libraのようなものがオープンになると、請求書の発行と消し込み作業がすべて自動化されます。お金に関する煩雑な作業がすべてソフトウェア化され、プログラムやスマートコントラクトによって処理される。売り掛けや買い掛けといった概念がなくなるかもしれません。そうなると、銀行や証券会社の業務が効率化されて、代わりに新しい仕事が生まれてきますから、その準備が必要です。

 

平野氏 自動消し込みは現在のテクノロジーでは難しいですか?

 

福島氏 不可能ではないが、ブロックチェーンやDLT(分散台帳技術)を使うほうがより効率的です。従来型システムとブロックチェーンの大きな違いは、企業間で閉じているか開かれているか。データやプログラムが共有されているかどうかです。現在の金融システムは、他行と連携しようとすると手作業が発生するため非効率です。

 

藤本真衣氏 Liburaの特徴であるステーブルコインは、ビットコインと違ってステーブル(安定)という名前どおりボラティリティがほとんどありません。ただ、投機性はありませんが、USDCやDAIといった既存のステーブルコインは金利が3~7%程度で、銀行預金より魅力的です。銀行預金からの流出を考えると、銀行自身が仮想通貨のプログラマブルな部分を活用することも重要ですが、資産形成としてステーブルコインを取り込む姿勢も必要ではないでしょうか。私が勧めても怪しく思われるだけかもしれませんが、地域に根ざして信頼を築いてきた銀行や金融機関が、新しい資金運用方法として提案することで新しい市場を開拓できる可能性もあります。

平野 洋一郎氏 BCCC代表理事 兼 アステリア株式会社 代表取締役社長/CEO
平野 洋一郎氏 BCCC代表理事 兼 アステリア株式会社 代表取締役社長/CEO

ステーブルコインのもつ可能性とビットコインとの違い

平野氏 Libraはステーブルコインであるという話が出ました。ビットコインとの違いは何でしょうか?

 

藤本氏 たとえば、国の経済が破綻しそうなときにビットコインの価格が上がります。国に管理されたお金よりも分散管理されたお金のほうが信用できるから、資産をそちらへ逃がすという意識からです。しかしその場合、ビットコインのボラティリティの大きさは欠点になります。その用途なら、ステーブルコインの需要が高まるでしょう。

 

杉井氏 重要なのはマイクロペイメントではなく、小さなお金の貸し借りをリアルタイムにできること。プログラムで管理できて、利息や金利は自動的に回収される。そういう世界が実現できることです。通貨として考えたときの使い勝手は、ビットコインよりも間違いなくよいはずです。

 

藤本氏 ただし、リブラはビットコインのように誰にも管理されない真に分散化されているのか。結局はLibra協会が中央で管理しているのではないか。そこで初めて、ビットコインとステーブルコインの良さが明確に分かれてきます。

 

平野氏 なぜ高い利率が実現できるのでしょうか。Libraで運用したほうがいいということでしょうか?

 

杉井氏 取引で活発に使われるようなら、短資のような需要が生まれ、金利で利益を出しやすくなります。プログラマブルマネーとして、流通に使いたい人が多くなり、借りたい人が増えると、実需が見込めて短期貸しも増えます。デリバティブのようなものも生まれるでしょう。

 

福島氏 これはDAI(MakerDAOが発行するステーブルコイン)の話ですが、ステーブルコインとして金利はつきません。しかし、プライベートな貸し借り市場が生まれていて、年利で6%くらいあります。DAIはDEX(分散型取引所)における基軸通貨のような位置にあるので、レバレッジをかけたい人が6%で取引しています。そのような短期貸し借りマーケットは必ず出てくると思います。たとえるなら、Libraを使って株式を買うようなものです。国を超えられるので、短期なら利子を払ってでもメリットがあるわけです。

 

杉井氏 ボラティリティが高いものを取引するという前提なら、相対で取引する通貨として使われることはありえます。銀行だとタイムラグがあったり手数料が高かったりしますから。

 

平野氏 Libra協会の参加企業は現在21社います。銀行が入るメリットはありますか?

 

福島氏 Libraのノードになるとビジネス的なうまみがあります。お金を眠らせておくだけなら、ノードになったほうがいい。通常の預金では預金者に利子が払われますが、Libraの場合は運営者に払われます。通貨バスケットで手堅く運用されるということです。IMF(国際通貨基金)が発行する通貨バスケットのSDI(特別引出権)はおよそ1.6~2%の金利ですが、同程度になるのではないでしょうか。リターンとして返ってきますし、預けるだけで失われることはないので悪くないです。

杉井 靖典氏 BCCC副代表理事 兼 カレンシーポート株式会社 代表取締役 CEO
杉井 靖典氏 BCCC副代表理事 兼 カレンシーポート株式会社 代表取締役 CEO

Libraの国内普及の可能性と日本経済に与える影響

平野氏 経済に対してはどんな影響を与えるのでしょうか?

 

福島氏 日本国内で日本人向けにLibraが流通する可能性は低いと思います。銀行振込のシステムは確立されていて困った経験をした人はほとんどいないでしょう。回数制限つきにせよ、手数料なしでの振込も実現されています。金融が行き渡っているという意味では、日本は先進国です。

 

Libraのターゲットはもう少し途上にある国で、インド、インドネシア、東南アジアあたりでしょう。

 

Libraは、たとえば全国銀行データ通信システム(全銀システム)を作り直そうとなったときに、手本にするシステムとして見ると非常に優れています。日本にとっては、日銀に同じようなシステムを作ってもらうのが最良ではないでしょうか。それなら金融機関のコストが削減できて、利用者にもメリットがあります。Libraを盾に、デジタル日本円を発行させるのが、実は日本経済にとってもっともインパクトがあるかもしれません。

 

杉井氏 Libraはステーブルということになっていますが、それは通貨バスケットに対してです。そのバスケットの構成は、日本円が14%、ドルが50%、ユーロが18%といわれており、結局為替があるわけです。それを通貨として使おうとすると、日本人には高いハードルです。だから、福島さんがいうように同じようなシステムを日本で作ればいいのです。Libra対抗というわけではなく、同じような機能を備えた日本版Libraとしてです。

 

福島氏 日本円にペッグするLibraということですよね。その場合の論点として、現在の日本はマイナス金利なので、銀行としては日銀に置いておく当座預金が逆ざやになってしまいます。ドルなら置いておいても2%くらいはさやを抜けるので、それが通貨発行者のメリットになります。しかし日本では発行者が損をしてしまう。運用できれば別ですが、当座預金に置いておくとなると難しい。それを上手く解決する方法が必要がありますし、われわれも考えています。

 

平野氏 ここまでの話をまとめると、Libraはステーブルといいつつ、バスケットなので日本円に対して多少のボラティリティがある。日本円だけにすれば、この問題は解消されるということですね。

 

杉井氏 私は福島さんの案とは違って、日銀である必要はないと考えています。市中銀行※1が発行しても、交換可能なら問題ないのではないかと。

※1 中央銀行に対して、一般の預金者から金銭を預かって事業者などに貸し出す銀行のこと

 

福島氏 その場合の難しさとして、決済システムで使おうとしたとき、金融機関の人は直感的に「No」となるはずです。なぜなら、日本の決済のファイナリティは日銀ネット、つまり日銀にある当座預金が最終形であり、それ以外はリスクになるからです。金融機関の姿勢は、システミックリスク※2を極力負わないというものですから。

※2 Systemic Risk。ある箇所で発生した決済不能が連鎖して広がり、世の中に混乱をおよぼす可能性のこと

 

平野氏 逆に、杉井さんのいう市中銀行が発行したときのメリットとはなんでしょうか?

 

杉井氏 スモールスタートができるということです。あるいは、銀行や大手でなくても、LINE PayやPayPayなどの資金決済業者でもよいです。

藤本 真衣氏 株式会社グラコネ 代表
藤本 真衣氏 株式会社グラコネ 代表

なぜLibraは世界中で抵抗を受け批判されるのか

藤本氏 7月にフランスで開催されたG7(7か国財務大臣・中央銀行総裁会議)ではステーブルコインが議論され、10月21日にはG7ワーキンググループの報告書と議長声明が公開されました。技術革新の可能性には期待しつつも、グローバルなステーブルコインは中央銀行かそれに近い民間組織が発行すべきといった論調です。Libraはいろいろなところが警戒しています。

 

平野氏 なぜ各国はLibraに対してそこまでネガティブに捉えるのでしょうか?

 

藤本氏 米国にとっては、Libraはドルの覇権に対する企業連合からの挑戦ととらえられています。欧州にとっては、ユーロに対する米国からの挑戦、中国やロシアにとっては人民元やルーブルに対する欧米からの挑戦ととらえられているのではないでしょうか。加えて、Libraはブロックチェーンを使っているにもかかわらず、ブロックチェーン業界には批判的なエンジニアも多く、「Open Libra(オープンリブラ)」なる対抗プロジェクトまで生まれています。

 

ざっと挙げただけでも、さまざまな立場から警戒される要素を多分にもっています。さらに米国で10月23日に行われた下院公聴会の様子を見ると、米国内でも敵視されています。マーク・ザッカーバーグが対中国政策として重要だと主張しても、議員たちは「その前に自分の会社のことをちゃんとしろ」といわれてしまう始末です。

 

福島氏 私もなぜここまで抵抗感や嫌悪感をもたれるのか考えていますが、結局のところ「フェイスブックだから」というのが最大の理由なのではないでしょうか。
私自身も含めて、日本人はフェイスブックに対してそれほど悪いイメージはもっていないでしょう。しかし欧米人と話をしていると、想像以上にフェイスブックは信頼されていません。プライバシーや選挙データ操作の件などで、そんなところに経済的に重要な役割を任せられないという意識があるのでしょう。

 

私はLibraのホワイトペーパーを読んだとき、よく考えられていると感心しました。Libraに対してAMLやシステミックリスクへの懸念などいろいろと挙げられてはいますが、実はそれらはすべて建前で、結局はフェイスブックという企業の信頼性に起因するものではないかと。逆にいえば、既存の金融機関や中央銀行がLibraのようなものを提案したら、すんなり受け入れられるかもしれません。

 

平野氏 民間企業だと難しいでしょうか。たとえば、グーグルやアマゾンだったら違った反応になっていたのでしょうか?

 

福島氏 企業イメージとしてはフェイスブックよりマシかもしれませんが、それでも似たような反応だったと思います。

 

杉井氏 ビザやマスターカードがLibra協会から抜けましたが、そのあたりなら違っていたかも知れません。

 

福島氏 金融業界の方とやりとりするようになって感じたのは、インターネット業界の人間が想像する以上に、金融業界ではシステムの安定性を維持しようと考えている点です。下手をしたら国の経済が止まる可能性もありますから。
フェイスブックは本当の意味で金融システムを作った経験はありません。実現するだけの技術力はあるかもしれませんが、カルチャーや姿勢の面で本当にできるのかが問われています。過去にできていなかったし、同じ過ちを繰り返すのではないかと。

福島 良典氏 株式会社LayerX founder&CEO
福島 良典氏 株式会社LayerX founder&CEO

銀行がLibra協会に参加するメリットとデメリット

平野氏 現状は各国に反対され、Libra協会の参加企業も発表時の28社からビザ、マスターカード、ペイパル、イーベイなど7社が離脱して21社に減っています。ただ、最終的には100社をめざしとしており、関心を示す組織が1500あり、そのなかで入会要件を満たしている組織が180あるとも最近発表されました。批判にさらされてでも参加する価値があると考える組織は多いわけですが、この100社に入るインセンティブとはなんでしょうか?

 

福島氏 先ほどもお話したように1つは利子があります。それから、金融機関のシステムにはシステム手数料というものがあり、常に1~2%かかります。膨大なトランザクションをさばいている企業が、手数料なしに自分たちでエコシステムを作れるならと、参加しているのではないかと思っています。

 

藤本氏 SpotifyやUberのような、クレジットカードをもっていないと利用できないサービスが、Libraによって利用できるようになるということもあるでしょう。

 

杉井氏 Libra協会の参加条件にユーザーベースの規模があります。サービス提供者は、Libraによって支払いを自動化し、サービスに組み込めるという点に魅力を感じるのでしょう。

 

平野氏 システム手数料という観点だと、ビザやマスターカードにとっては競合になりますが、その2社が最初入っていたのはなぜでしょうか?

 

杉井氏 入っておかないと、その市場をまったくとれなくなるので、乗っておいたほうがメリットがあると考えたのでしょう。

 

福島氏 あとはその2社も含めて、クレジットカードなどのシステムは堅牢なものがすでに存在します。先進国の決済をクレジットカードから仮想通貨に変えるのは相当ハードルが高い。でも、それらがまだ整っていない国なら、手数料がより安くて使い勝手もいいものをブロックチェーンで構築できる可能性があります。

 

杉井氏 17億人の金融包摂にかかわれるというのは、やはりおいしいのではないでしょうか。さらにいえば、金融の摩擦がなくなりつつあるこの時代に、いままでの先進国がこれからも先進国であり続けられるのかという問題もあります。

アリペイがお手本? ― Libraがめざすのは次世代の金融ビジネスモデル

福島氏 Libraは中国のアリペイなどを参考にしているのではないかと思っています。アリペイやウィーチャットペイには企業も参加していますが、決済手数料を取っていません。彼らはデータを集めてユーザー個人の与信をして、完全に貸し付けビジネスとして成立させようとしています。これまでは決済手数料ビジネスが成立していましたが、この先100年も続くかといえばそれは難しいでしょう。

 

これからは、不確実な貸し付けや、ファクタリングではないですが、売り掛けを早く回収してその時間に対して手数料を払うビジネスが台頭し、使うことに対する関所的な手数料ビジネスは減っていくでしょう。ビザもマスターカードも、次のモデルを考えなければ衰退すると考えているのかもしれません。

 

平野氏 手数料ビジネスが衰退するのは仮想通貨だからなのか、それとも法定通貨でも起こるのでしょうか?

 

福島氏 私は情報メディア産業のアナロジーで考えています。インターネット以前のメディア産業は手数料ビジネスだったといえます。間にさまざまな人がかかわりながら関所のように手数料を取り、最後にテレビや新聞などのネットワークに乗る。同じことが金融領域でも起こると思います。

 

現在の金融システムにおける関所には、規制を守ったり、決済リスクを減らしたりするために存在意義があります。しかし、それらが技術的に担保されるようになったら、その先は決済が担保されたうえでどう貸し付けるか、運用するかということに付加価値が移動していくでしょう。

 

メディア産業でも、かつては情報を正しく速く送ることは難しかったものが、いまでは技術で担保されてプライバシーも守りながら簡単にできます。手数料を取るのではなくその先にある、すぐれたアプリケーションを作り、良質なユーザーを集めてお金を得ましょうとなったのと同じです。

 

将来的に金融機関は、決済リスクをなくしたり、お金を保全したりするインフラ側ではなく、どう貸し付けるかといったアプリケーション側として存在していくことになるでしょう。

 

平野氏 ということは、やはり銀行はLibra協会に入るべきですか?

 

福島氏 決済システムをブロックチェーンベースで置き換えた、普及する「リブラ的なもの」には入るべきだと思います。ただし現状のLibraは、政治リスクを負ってまで金融機関が入るべきとは思えません。

 

杉井氏 いまはLibraが騒がれていますが、本命となるものは実はLibraではなく、新たに出てくるLibra的なものかもしれません。軋轢を生まないように、よりしっかりと考えて設計されたものです。

 

平野氏 金融機関の役割がインフラ側からアプリケーション側へということですが、たとえば国際送金のSWIFTはいらなくなりますか?

 

福島氏 いらないです。SWIFTのようなものこそ、もっともブロックチェーンで置き換えられるべきシステムの1つでしょう。

本命はLibraではない ― 新たに登場する「Libra的なもの」とは?

平野氏 最後にあらためて、「Libra的なもの」も含めてLibraは普及するでしょうか?

 

藤本氏 現状、発行されるのかどうかも怪しくなってきました。Libra的なもの、ビヨンドLibraなどの話も出てきて展開が速いです。なぜ、米国が規制できないスイスに本部を置くのか。今後もスイスのままか、ワシントンあたりに移すのか。それによっても変わるでしょう。

 

G7やいろいろな発言を見ていると、国ごとに政府が管理する、中央銀行寄りの民間企業がやるものが出てくる可能性もあると思っています。ブロックチェーン業界の人間としては、決してそれを望んでいるわけではありませんが。

 

福島氏 6月にホワイトペーパーを見た瞬間は、絶対に普及すると確信しました。しかしこれまでの動きを見ていると、Libraそのものの普及は難しいと思っています。ただ、リップルやライトニングネットワークなど、Libraと似たようなことをめざすものがあり、その一歩進んだものがLibraという見方もできます。

 

検索エンジンでは、かつてアルタビスタやヤフーが生まれ、その後にグーグルが登場しました。SNSでは、最初にSixDegreesが出てきて、MySpaceやフェイスブックが登場してきた状況と似た雰囲気を感じます。注目しているし追い続けますが、普及は難しいと思っています。

 

杉井氏 ミニLibraのようなものが数多く出てくると思っています。銀行でもいいし、資金移動業者でもいいし、さまざまな形でLibra的なチャレンジが行われるのではないかと。Libraの正体はIOU※3発行であり、それをデジタル基盤で流通させるものです。これは前払式支払手段と近いもので、日本でも中国でも普及しています。世界中で同じレギュレーションで発行するなら、Libra的なものはプログラマブルマネーとして実装可能です。

 

スマートコントラクトの基盤としてイーサリアムが流行っているが、決済の社会基盤になるのは難しいと思います。法定通貨にステーブルなものが主流になっていくでしょう。Libra的なもの、つまりスマートコントラクトが動く基盤に発行されたIOUが雨後の筍のように出てきて、その中から勝者が生まれるでしょう。

※3 「I owe you」の略称。ネットワーク間での貸し借りの付け替えができるシステムで、仮想通貨リップルで用いられる

Libraはイノベーションの促進剤として機能

今回の討論では、Libraそのものの普及は難しいだろうという見解で一致した。このような見方は、Libraの発表後から業界識者から一貫して発せられてきたものであり、BCCCによる7月の座談会イベントでも同じだ。しかし新たな動きとして「Libraに代わるもの」の可能性や必要性が強まりつつことは注目すべきだろう。実際、日本銀行ではブロックチェーン活用の研究や実証実験を行っているし、福島氏が率いるLayerXでも次世代の金融システムとなるプロジェクトに取り組んでいる。

 

7月の座談会で弁護士の増島雅和氏は、「国はイノベーションを止めてはいけないことになっている。Libraをきっかけに議論が一気に進むことがあるなら、金融イノベーションを促進できて全体にとってはいいことかもしれない」と語った。その言葉のとおり、Libraは世界中で議論を巻き起こし、少なくともイノベーションの促進剤としての役割は果たしているように思える。

 

福島氏が語ったように、規制当局の抵抗の理由が本質的なものではなくフェイスブックに対する「単なる好き嫌い」であるなら、Libra的な別のものが台頭する可能性は十分にあるだろう。

 

 

文・構成・写真:仲里淳