
4.転売時のロイヤリティに戻る
5.所有権
NFTは持ち主を記録することによって所有者との紐付けを行なっている。持ち主の実態は暗号資産ウォレット(以下クリプトウォレット)に入っている秘密鍵だ。NFTはこの秘密鍵とコンテンツを紐づけて所有権認証をする仕組みとなっている。つまり所有権の実態は、自分が所有しているスマホやパソコン=パーソナルな持ち物であり、本人に特定できるという前提で、この中につくられた秘密鍵とひもづているのだ。そのために基本はクリプトウォレットの所持がマストとなる。つまり決済を暗号資産で行うことが求められるのだ。
暗号資産で購入するためには、暗号資産取引所に口座を開き、法定通貨を送金して、暗号資産を購入して、自分のウォレットに送ってはじめて、NFTマーケットプレイスでNFTを買えるようになる。秘密鍵をデバイスの中に保管するタイプのウォレットの場合には、管理は完全に自己責任で送金先のアドレスを間違えて送ってしまったり、盗まれてしまったときに救済措置はない。非中央集権の怖いところでもあるが、誰も管理していないので、全て自分の責任で管理する必要がある。NFTマーケットプレイスは、ユーザーにこれらのハードルを超えてもらう必要がある。
ユーザーのハードルを下げるためにNFTのマーケットプレイスの中にはクレジットカード決済(法定通貨による決済)を導入しているところがある。クレジットカード決済はこれらのステップをスキップさせてくれてハードルを下げてくれるのだが、
問題となるのが決済の問題ではなく実態としての所有の有無の問題だ。
クレジットカードでの購入者は、秘密鍵が自分のスマホにもパソコンの中にもないため、NFTマーケットプレイスの運営者サイドの秘密鍵に紐づいている。
つまり、
自分で買って保有しているつもりでも、実態としては、運営サイドが預かっているという状態になっているのだ。仮に運営社サイドに悪意がある場合には、預かっているNFTを勝手に他人に譲渡することができ、廃業した時には、NFTも消えてしまう状態というわけだ。
この課題解決のアプローチの一つとしてクリプト決済とクレジットカード決済の中間的な手法を実現したウォレットも存在している。暗号資産取引所に口座を開かなくても、ウォレットの中でクレジットカードでクリプトを簡単に買えて、かつ、秘密鍵を分散保管することによって、自己管理できるウォレット”Torus”だ。馴染みのSNSでログインするだけで秘密鍵との紐付けが行われる。ただ、これもウェレットの中にクレジットカードで暗号資産を買える機能が実装されているので、一番面倒で時間がかかる暗号資産取引所に口座を開くというステップはスキップできるが、暗号資産で決済をするという意味では、Metamaskなどの普及しているクリプトウォレットと変わらない。いずれにしてもNFTを完全に自己保有状態にするためには、購入プロセスのどこかに暗号資産を挟む必要があり、クレジットカード決済だけで完結させる方法では難しい。
NFTマーケットプレイスのTop Shotもクレジットカード対応だが、クレジットカードで購入した場合にはNFTは自分の秘密鍵との紐付けはされていない。
つまり、状態としては、買ったモノをそのまま店に預けている状態であり、仕組みをわかっているエンジニアは、拒否反応を示している。これで所有していると言いきるのは、無理があるかもしれない。
6.法の適応
ブロックチェーンに詳しい弁護士からは
「日本の法律では、NFTの購入が所有権や著作権の取得にはならない。法的にはデジタルコンテンツの所有権という概念もない。また、World of Womanのように、商業ライセンスを付加するといったコンテンツもあるが、法的にはNFTの譲渡だけで、契約を成立させることは難しくあくまで取引を行う2者間での紳士協定的な契約という整理にしかならない。」
といった意見が聞かれた。デジタルデータの権利も未整備で、デジタルデータをモノとして解釈はできないということで、仮に紛争が生じた場合には法的には勝てそうにない。あくまで取引する2社間での握りであるという整理となる。
このような状況にもかかわらず、数千万円、数億円とったNFTが取引されており、リーガル整備よりも早く足を踏み入れる人がグローバルで少なくとも30万人以上はおり、Web3.0の世界の牽引力の力強さを感じる。
NFTの法的解釈の問題は2社間での信頼関係で解決することができるが、NFTを取り扱う事業者にとっては他の問題も存在している。NFTの売買をさせるときに、前述のTorusのようにクレジットカードで簡単に暗号資産を買える仕組みを持ったウォレットがユーザーには喜ばれ、かつ秘密鍵もあり所有権もしっかりと与えられるのでいいとこ取りとなりそうだが、日本の法律では、Torusは暗号資産交換業に該当する可能性があり、該当した場合には、金融庁から暗号資産交換業者としての認可を受ける必要が出てくる。
結局、暗号資産が絡むプロジェクトの最大の壁は技術やセキュリティよりもリーガルとなっている。
またユーザーに厳格な管理が求められる秘密鍵は、暗号資産取引所のように運営者サイドで預かった方が負担が減らせるが、運営者はカストディアンとなってしまい、またまた、金融庁の認可が必要となる。
運営者サイドのハードルを下げるための結論としては、ユーザーに負担を強いることになるが、秘密鍵を預からずに(ホットウォレットにしない)、ユーザー管理のクリプトウォレットで決済してもらい、かつ、イーサリアムなどの暗号資産と交換可能なガバナンストークンは発行しないサービス構成とする。資産交換業、資金移動業などの認可が不要なライトな構成だ。
7.ガス代(手数料)
永続性という視点ではイーサリアムに書き込むのがベストである理由は理解いただけけたと思うが、イーサリアムにもNFTのプラットフォームとして使う時に大きな課題がある。ガス代(手数料)が異常に高いことだ。法廷通貨ベースのガス代はトランザクションの混雑やイーサリアムの対法定通貨に対する価格の変動によって大きく変動する。
2021年8月時点では、1 ETH=43万円ぐらい(2017年12月は1ETH=1万円)となってしまったこともあり、500円のNFTコンテンツを買うのに、3,500円の手数料(スマートコントラクトの稼働に必要なガス代)がかかったり、500円の暗号資産を別のチェーンの暗号資産に変換するのに1万円(スマートコントラクトの稼働に必要なガス代)かかったりしている。
単価の高いコンテンツの売買や高額な暗号資産の送金などはまだなんとか使えるが、低額取引の場合には使い物にならない。OpenSeaは高額なガス代によってリストするためのハードルが上がらないようにするために、クリエイターが自分の作品をリストした時に、ブロックチェーンへの書き込みが行われない仕組みを実装することによって、リストの無料を実現している。書き込みが行われるのは売買が成立したタイミングであり発行のためのガス代は購入者が負担する絵だ。そのため厳密にはリスト時にはクリエイターは自分の作品としてクリエイターの秘密鍵にひもづいていない。
対して、Raribleはリスト時にブロックチェーンに書き込むようになっている。そのためリストするクリエイターなどは、5,000~10,000円と高額なガス代を払って作品をリストしている。仮に1000点の作品をリストする場合には、500万円~1,000万円かかることになるので、確実に売れるという作品以外はリストできないだろう。
この課題解決で登場したのがイーサリアムのレイヤー2チェーンだ。レイヤー2チェーンとは、簡単にいうとメインチェーンに紐づけて使うチェーンで、コバンザメのような存在だ。レイヤー2チェーンは、最終的な書き込みはイーサリアムだが、全てのトランザクションを毎回書き込まずに、まとめて書き込むようにすることによってガス代を節約している。
使い方のイメージとしては、売買を行うと、その度にガス代がかかるので、都度の売買はレイヤー2チェーンで行い、100回行われたら、1回だけイーサリアムに書き込むといったパターンにすると、イーサリアムに対する1回の手数料が1/100になるというわけだ。
なお、ICOVOでもPoAによる高速でガス代がかからないレイヤー2ソリューションとしてVELOCITYをリリースしている。
ただ、グローバルのNFTのコミュニティの間では、圧倒的にレイヤー2ではなく、メインチェーンであるイーサリアムが使われている。ちなみに(1)でも書いたが、グローバルでイーサリアムの代わりに使われているレイヤー2チェーンは、Polygonが多い。また全く違うチェーンはRonnin、Flow、WAXなどがあるが、販売ボリューム上位100のプロジェクトの中で、Polygonは4プロジェクト、Ronninが1プロジェクト、Flowが1プロジェクト、WAXが8プロジェクト、残りの84プロジェクトは全てイーサリアムとなっている。イーサリアムが殆ど使われなくなったイールドファーミングのプロジェクトとは対照的だ。イールドファーミングの場合にはガス代が高すぎると利益が飛んでしまうので、安いPolygonやBSCが殆んどだ。
対してNFTの場合にガス代が高いイーサリアムが使われ続けている理由は、主役であるNFTトレーダーの立ち位置で考え場合、ガス代がいくら高くても、その分転売価格に載せれば済む話であり、ガス代はあまり影響がないからであろう。
以上
1.永続性
2.無権限発行
3.セキュリティ
4.転売時のロイヤリティ
5.所有権
6.法の適応
7.ガス代(手数料)
の7つの切り口で、NFTの課題を整理してみた。NFTは課題が山積していて決して魔法の杖ではないが、現時点で6,000以上のコレクション(プロジェクト)がアクティブになっており、そのうち750のコレクションは平均月4,000万円以上、1,700のコレクションは平均月400万円以上の取引ボリュームになっている。
OpenSea、Rarible、Foundation,SuparRare4社合計の営業収益は8月に89億ドルを超え、9月の20日時点で49億ドルを超えている。
OpenSea単体で月40万人以上が取引し、1日に8万個のNFTが売れている。
今回は、アート作品をメインに紹介したが、NFTは不動産やさまざまな権利の売買に適している。
この状況を踏まえると、技術が枯れ、管理体制やセキュリティが成熟し、リーガルが追いつき、NFTがブロックチェーン領域における産業応用事例の大きな柱の一つとなるのは時間の問題であろうと考えるのは私だけではないであろう。
ICOVO社では、NFTに興味をお持ちのクリエイター・アーティストおよび関連事業者に対して受託まはた成功報酬でプロジェクト構築から運営までトータルに支援をしています。
お気軽にお問い合わせください。contact@icovo.co